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微妙な立場 [ 7/13 ]


 ぬらりひょんと鯉伴に好き勝手された私は、翌日起き上がることが出来ず又も床に伏せることとなった。
「総大将も鯉伴も藍のこと考えてやれば良いものを。本当あの馬鹿共はっ」
 そう言いながら手ぬぐいを絞っているが、パキパキと凍っているのは気のせいではないと思う。
「私は、大丈夫ですから」
「病み上がりのあんたを襲うあいつらなんて死ねば良いのよ」
 相変わらず過激発言に私は苦笑を浮かべ、まあまあと雪羅を宥めた。
「正直、藍に会えるとは思わなかったわ。若が、中学校に入ってくらいって言ってたからそれまでは会えないと覚悟していたし」
「私も一緒です。でも、私はここに居るべきではない。それを何度申し上げても聞き入れて貰えなくて……若菜様に会わせる顔がないわ」
 顔を曇らせる私に、雪羅はゆっくりと首を横に振り言った。
「若菜は、若を産むために鯉伴が娶った妾。藍は、奴良組にとって大切な姫よ。一緒に考えてはダメ」
 あえて嫁という言葉を使わなかったのは雪羅の気遣いか。雪羅の言葉に納得できるはずもなく、難しい顔をする私に対し彼女はギュッと抱きしめてきた。ひんやりとした体が心地よい。
「若菜は、全て承知の上で鯉伴の妾になったの。あんたが、気兼ねしてはそれこそ若菜に失礼と言うものよ。若い連中が何を言っても堂々としていなさい。そうしなければ、桜達にも害が及ぶわよ」
 雪羅の言葉に、私は唇を噛んだ。雪羅が言うとおり、私が揺らげば子供達に被害が及ぶ可能性は高い。
「……はい」
「ま、幹部や古参の妖怪達はみんな藍を認めてるわ」
「雪羅さん……」
「あんたのやり方で新参者の妖怪達を認めさせてやりな。あんたならできる」
 綺麗な笑みを浮かべる雪羅に、私は小さく頷いた。雪羅は、私が微妙な立場なのを踏まえた上で自力で周りを認めさせろと言っている。
 彼女の言うことは尤もで、私自身がそうしなければ奴良組で派閥が出来かねない。
「雪羅さん、ありがとう。他の方にも、手出し無用と伝達お願いします。後、緘口令も」
「ハイハイ。頑張りな」
 雪羅の励ましに、私は肩の力を抜き小さく笑みを浮かべた。


 雪羅にああ言ったものの、正直自分を認めさせることができるのか不安でもあった。
 若菜の立場だったら、相手を恨むかもしれないし嫉妬で身を焦がしそうだ。
 私の体調が戻り、客間から北の間へと移される。正室が使うために用意された部屋らしく。両隣にはぬらりひょんと鯉伴、さらに隣にリクオの部屋が並んであった。
 この配置にあまり良い顔をしない妖怪が多数いるのは何となく分かる。若菜も私を敬遠してか、姿を見たら目を逸らし逃げていく。話をしようにも話せない日々が続いた。
 ある日のこと、朝食を取っていると鯉伴の何気ない一言が波紋を呼んだ。
「なあ、何で飯作らないんだ? 俺は、オメェさんの飯が食いたい」
 台所に立たして貰えないとは言えず上手い言い訳を考えていると、首無しが口を挟んだ。
「瑞姫が、台所に立たなくとも若菜様が美味しい料理を作ってくださるから良いじゃないですか」
「俺は、愛妻の手料理が食いたいっつてんだよ。分かってねーなぁ、首無し」
「ワシも瑞姫の飯が食いたい。玉子焼きは絶品じゃからな。リクオも食ってみたいじゃろ?」
「うん!」
 鯉伴の言葉に便乗するぬらりひょんと、状況が分かっていないリクオ。私が台所に立つと言うことは、女の城である台所を明け渡すということ。つまり、敗北を意味する。
「瑞姫、今夜の飯はあんたが作れ」
「え……」
 ぬらりひょんの一言に、若菜を慕う妖怪達が口々に若菜が可哀想だと不満を零している。
 彼は、聞く耳を持たない。押し切られるように任された夕食作りに、私は大きな溜息を吐いた。
 この一件を境に、若菜との確執が根深いものになろうとはまだ知る由もなかった。

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