小説 | ナノ

一触即発 [ 9/13 ]


 奴良家に娘共々奴良家にご厄介になって一週間が過ぎたある日、騒動は起きた。
 あの一件で台所を任された私は、基本的に古参の妖怪達と共に食事の支度をしている。
 比較的新しい妖怪達は、皆若菜の味方で話をしようにも無視をされてしまうので進展することなく冷戦状態だ。
 このままで良いと思ってはいないが、話をしたくとも当の本人が逃げるのでする機会に恵まれない。
 ハァと思わず溜息が漏れたのを聞きとがめた豆腐小僧が心配そうな顔で覗き込んできた。
「藍様、どうされましたか?」
「え? ああ、何でもありません」
 言葉を濁すも納得した様子はなく、渋い顔をしている。
「藍様が、気に掛けることないです! そりゃ多少は気の毒かとは思いますけど、二代目はちゃんと藍様に心を預けている上で若菜様を妾に迎え入れたんです。それを了承して嫁いできたのは若菜様なんだ」
「人も妖も誰かを思い慕う気持ちに嘘を吐くことは出来ないでしょう。鯉伴様を深く愛されているから嫉妬してしまう若菜様の気持ちが何となく分かってしまう。咎めることなんて出来ません」
「藍様……」
「それに、今はまだ難しいかもしれませんが歩み寄れると信じてます。鯉伴様が選んだ方ですから」
 落ち込んでいる暇はないし、いつまでも険悪な雰囲気が続くのは好ましくない。
 地道に自分の出来ることを一つ一つ片付けるしかないのだ。
「本当、藍様には敵わないですね」
「そう? いつも率先してお手伝いしてくださる納豆小僧さんには頭が上がらないわ」
 納豆小僧は、照れ臭そうに笑いながらも食事の支度に精を出したのだった。


 朝食を食べ終えた妖怪達は、それぞれ自分の食器を片付けた後、寝床に戻り眠りにつく。
 起きているのは、私と若菜と子供達くらいである。若菜はリクオに掛かりっきりだし、私は家事に追われて子供達の面倒がなかなか見れないでいた。
「水郷様にも挨拶しないとだし、一度八ツ原に行こうかしら」
 何も言わず出て行ったら大騒ぎになりそうなので、私は暫し考え子供達を連れて若菜のところへと向かった。
「若菜様、少し宜しいですか?」
 彼女の部屋の前に座り襖越しに声を掛けてみるが返事はない。
「八ツ原神社に用事が出来たので、少し邸を空けたいのです。厚かましいとは思うのですが、私が戻ってくるまでの間、子供達を見ていて頂けないでしょうか」
 暫く返事を待っても返ってくることはなく、諦めにも似た溜息が漏れた。
 了解が得られないなら、誰かが起きてから八ツ原に行くしかないだろう。
「桜、九重、霞、おいで」
 これ以上ここで粘っても無駄と判断した私は、子供達の名を呼び移動を促した。
「……良いわ。子供達の面倒を見れば良いのね」
 スッと開かれた襖の先に、無表情の若菜が立っていた。
「リクオも遊び相手が居る方が喜ぶわ」
 薄く笑みを浮かべる若菜に、ぞわりと嫌な気配を感じた。このまま、子供たちを預けて良いのかと警戒音が頭に鳴り響く。
「あ、しゃくらたちだ!! おにごっこしよー」
 若菜の後ろからリクオが顔を出し、一緒に遊ぼうと桜達に声を掛けている。
 若菜とリクオを交互に見た後、遊びたいのが先にたったのか小さく頷きリクオと共に庭へと駆けて行ってしまった。
「ちゃんと見ておきますよ」
「………では、よろしくお願いします」
 嫌な予感はしたが、幾ら若菜でも下手なことはしないだろうと私は子供たちを預けたのだった。

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