小説 | ナノ

いつも別れを見つめて11 [ 95/145 ]


 結局、私の逃亡劇は一週間で幕を閉じた。妖怪達も必死なのか、三代目をお腹に宿した私を逃してなるものかと奴良組での私の立場は鯉伴より上だと言っていいかもしれない。
 逆に鯉伴の株は大暴落し、私に近づけさせまいと一致団結した彼の下僕達が今日も今日とて邪魔している。
 それでも、私としてはちゃんと話をしておきたかった。妖怪が寝静まる昼間に、私は鯉伴の部屋へと顔を覗かせた。
 すやすやと寝入る鯉伴を見て、私は起こすのも気が引け出直そうかと考えていたら、背中から抱きしめられ部屋に引きずり込まれた。
「……やっと捕まえた」
 大きな溜息と共に吐き出された彼の言葉に、私は困った顔で聞き流す。
「……鯉伴様にお話があって来たんです」
 腕を解き彼の前に座ると、彼も真剣な表情で姿勢を正した。
「本家の皆さんは、三代目を待ち望んでいるのは存じております。ですが、鯉伴様に望まれていないなら生まれてくる子供が可哀想です。その時は、私一人でこの子を育てます」
「俺の子供を産むのは、佐久穂だけだ。元気な子供を産んでくれよ」
「はい」
 子供を産んでくれと言葉を貰い、私はホッと安堵の息を吐いた。少なくとも子供を望まれていると分かっただけ嬉しかった。
「後は、祝言だな。腹が目立つ前に挙げるか」
「祝言は、好きな方となさって下さいませ。私は、子が出来たから責任を取って欲しいなどと思ってませんので要らぬ気遣いです」
 私の言葉に鯉伴の顔が呆気に取られている。そんなに衝撃的なことを言っただろうか?
「俺は、佐久穂に心底惚れてんだ。夫婦になるならお前しかいねぇ」
 新手の冗談かと眉を潜めていると、それを感じ取った鯉伴は更に口説き文句を吐き続けた。
「祝言は好きな奴とって言ったのは佐久穂だろう。なら、責任持って嫁に来い」
「はぁ……」
「それに子供にゃ、親が必要だ。想像してみろ。片親だったら可哀想じゃねぇか」
「……そうですね?」
「なら、やっぱり祝言を挙げて正式に夫婦になって子供を育てるのが一番だ」
「……そうなのかな?」
「そうなんだよ」
 何だか言い包められた感が否めないが、鯉伴の云う事は一理あるので頷くと彼は嬉しそうに破顔した。
 数年後、息子の妖怪の成人を機に離縁を申し出て騒動を起こすのだが、また別のお話となる。


おしまい

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