小説 | ナノ

いつも別れを見つめて10 [ 94/145 ]


 雪麗の部屋に通された私は、おずおずと畳みに腰を下ろした。
「逃げた理由から聞かせてくれないかい? 私等も、あんたを探すのに借り出されてね。この一週間ろくに休んでも居ないんだ」
 長い沈黙の後、重い口を開きポツポツと話し始めた。
「鯉伴様が、私を嫁にするって言ったのは嘘なんです。人間を快く思ってない妖怪達に食べられないように嘘を吐かれて、違うって言ったら食べられるって言われて……怖くて言い出せなかった……」
 私の言葉に、息を呑む声が聞こえる。そりゃそうだろう。嫁候補だと思っていた女は、恋人でも何でもないただの女で周りを騙していたのだから怒っても仕方がない。
「……でも、それだけで逃げる理由にはならないわ」
「そうですね。佐久穂は、何で逃げたの?」
「…………………………………………………………………………子供が」
 か細い声で、ポツリと呟いた言葉に彼らは目ざとく反応を示す。
「子供が出来たのね?」
 毛女郎にガシッと肩を掴まれ、私は小さく頷くと豊満な胸に顔を埋める形で抱きしめられた。
「よくやった!!」
「そうじゃないでしょう! 佐久穂は、子供が出来たから逃げたのね?」
 雪麗が、ベシッと毛女郎の頭を叩き反れた話の軌道修正を行う。
「はい」
「あー、大体読めたわ。あの馬鹿、佐久穂を脅して関係を結んでたのね」
 氷点下越えした雪麗の周囲に、私はブルリと身を震わせる。
「迷惑とか考えなくて良いわ。子供は絶対産みなさい。誰に何と言われようと、私が佐久穂と子供を守るわ」
「……雪麗さん」
 三代目候補がお腹の中にいるのだ。むざむざと逃がしたくない雪麗は、何とも男らしい台詞を吐いた。
「二代目には、きっついお仕置きが必要ですねぇ。逆さ吊りにしましょうか?」
「この際、殺しても良いんじゃないかしら? 三代目も出来たことだし」
 ニコニコと笑みを浮かべる二人の目は、完全に据わっている。
「あ、あの……雪麗さん? 毛女郎姐さん?」
「「ちょっと殺ってくるわ」」
 そういうと、彼女等は部屋を出て行き枝垂桜に吊るされた鯉伴を私刑していた。
 慌てて彼女等の後を追いかけると、走ってきた私を見て怒りの矛先が私に向いた。
「あんた、何走ってんのよ!!」
「佐久穂、自分が身重なの分かってるの? 扱けたらどうするつもり」
 眦を吊り上げ怒る二人に私はひたすら頭を下げる。
 私達の会話を聞いていた妖怪達が、三代目を身篭っていることを聞きワッと沸いた。
 祝言だ何だと口々に言う彼らに泣きそうになる私を庇うように、雪麗と毛女郎が彼らを一喝する。
「黙りな!! 佐久穂は、こんな屑野郎と結婚させないわ!」
「三代目も授かったことですし、潔く二代目は死んで下さい。佐久穂にした仕打ちに比べれば可愛いもんでしょう」
 物騒なことを宣う毛女郎に、私はそれだけはダメだと縋りつき止める。
「庇う必要なんてないわ。寧ろ死ね」
「そうよぉ。死ねば良いんです」
 フフフッ、オホホホと笑う彼らに青ざめたのは、私だけではなかったようで暴走気味の雪麗と毛女郎を必死に説得すること1時間。逆さ吊りの刑にすることで妥協してくれたのだった。

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