小説 | ナノ

続・いつも別れを見つめて1 [ 96/145 ]


 リクオの三代目襲名式は、彼の誕生日に執り行われた。
 厳かな中で三代目としての威厳を醸し挨拶とする我が息子に、佐久穂は嬉しくもありこれからを思うと寂しくもあった。
 彼の生母として挨拶をしたいと無理を願い出て望んだ初めての集会。
「妖としての成人、そして奴良組三代目襲名がいとも厳かに滞りなく執り行われましたことを、ご臨席の皆様にご報告申し上げます。しかし、彼はまだまだ若輩者。皆様におかれましては今後も限りない御支援を賜りますようお願い申し上げます」
 上段に設けられた席で母として頭を下げた後、自らその場所を降りリクオの前に座り頭を下げた。
「リクオ様、妖の成人と三代目襲名お喜び申し上げます」
 下僕のように傅く佐久穂を見たリクオは、ギョッと驚き止めさせようと席を立とうとした。
「佐久穂様、何を……」
「鴉天狗様」
 鴉天狗を声一つで制止し、佐久穂はゆっくりと顔を上げた。リクオに微笑み、視線をずらし射抜くように鯉伴を見た後、爆弾を落とした。
「素晴らしき良き日に私事では御座いますが、この場をお借りしてご報告したいことが御座います」
 嫌な予感しかしない佐久穂の態度に、一体何をしたんだと責めるような視線が鯉伴に向かった。
「報告とは何じゃ?」
 眉間に皺を寄せながら佐久穂の言葉を待つぬらりひょんに、彼女は花も綻ぶような笑みを浮かべて言った。
「今日、この時を持って鯉伴様と離縁させて頂きます」
「「「「えええっーーー!!!」」」
 事実上の三行半を突きつけられた鯉伴は、唖然としている。
「ちょっ、お袋一体どういう事だよ?」
「言葉通りです。妖として成人はしましたが、人としての成人はまだ七年もあります。リクオ、貴方と親子の縁を切ったわけではありません。困ったことがあったら、いつでも連絡をするのですよ。それでは、皆様今までお世話になりました」
 佐久穂は頭を下げ綺麗な礼をしてみせた。そして、用は済んだと言わんばかりに立ち上がり大広間を堂々とした出で立ちで出て行った。
「鯉伴、てめぇ一体何を仕出かしたんじゃ!?」
「俺は、何にもしてないぜ」
「温厚な佐久穂様が、離婚を持ち出すくらいのことを仕出かしたんだろうが!!」
「さっさと謝って来い」
 ぬらりひょんや下僕に責められるも、鯉伴には身に覚えがない。しかし、リクオは心当たりがあったのか頭に手をやり溜息を吐いている。
「リクオ様、どうしたんですか?」
「山吹乙女を連れ帰ったのが原因かもしんねぇ」
 青ざめた顔で項垂れるリクオに鴉天狗はまさかと否定しようとしたが、山吹乙女が元々は鯉伴の前妻であり長期間彼女を思い続けていたのは皆知っていることだ。
 どこからその情報が佐久穂に伝わってもおかしくないし、それを知った佐久穂が山吹乙女を連れ帰った事実に離縁を切り出したとなれば辻褄は合う。
「り、鯉伴様!! 早く佐久穂様の元へ行って下さい! 誤解を解かねば」
 絶叫に近い鴉天狗の訴えは、魂の抜けてしまった鯉伴には通じなかった。
 前妻には逃げられ、後妻には離縁を突きつけられた鯉伴。自業自得と分かっていても、この場にいる全ての妖怪の心が鯉伴を不憫だと思った瞬間だった。

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