小説 | ナノ

誤解を生む男 [ 93/259 ]


 ぬらりひょんが誤解を招く男なら、秀元は誤解を生む男だと思う。
 行方不明になった私の居場所を特定するため、ぬらりひょんが尋ねたのは花開院本家なのだが、彼がそこで見たものは許しがたいものだった。
 私の手料理をムシャムシャと食べる秀元の姿に心の狭い彼は、プチッと堪忍袋の緒をぶった切り畏れを撒き散らしている。
「秀元、これはどういうことだ?」
 ドスの利いた低い声で、秀元を呼ぶぬらりひょんに彼は動じない。
「ぬらちゃん、遅かったなー。瑞姫お手製のご飯めちゃ上手いわ」
「テメェが、瑞姫を連れ去った張本人かい」
「だったらどうすんのー?」
 思いっきりからかいモードに入っている秀元に、ぬらりひょんは長ドスを構え今にも切りかかりそうだ。
「妖様、落ち着いて下さい」
「そーやで、そんなカリカリしてたら兄さんみたいにハゲんで」
 秀元の暴言とも取れる発言に、是光の苦労を悟った。
「あいつは、剃髪だろうが!」
「二人ともいい加減になさって下さい!! 妖様は、刀を仕舞う! 秀元さんは、妖様をからかわない!」
 私の怒声に、ぬらりひょんと秀元の動きがピタリと止まる。
「瑞、何もされなかったか?」
 ギューッと抱きついてくるぬらりひょんに、私はされるがままになっている。
 ここで抵抗したら、多分きっと絶対後に引くだろう。
「妖様は、どうしてここへ?」
「妖狩りから戻ったら、瑞が連れ去られたと騒ぎになっていてな。性格に難有りだが、京で起きたことなら把握しているだろう秀元のところに、瑞の居場所を聞くために来たんじゃ。なのに……こいつに飯食わせてるとは何故じゃ!」
 ご飯を作ったことに対し、相当怒りが募っているのかブーブーと文句を言ってくる。
「ご飯作れとあまりにも煩かったので作ったんです」
「そんな風に言わんでもええやん。瑞姫のいけず」
 シクシクと似合いもしないのに泣きまねをする秀元は心底ウザイ。
「ワシの嫁を誘拐しておいてフザケタことぬかすな」
 眉間に皺を深く刻み込み射抜くように秀元を見るぬらりひょんに、彼はクツリと食えない笑みを浮かべて言った。
「ボクが、瑞姫を誘拐したんとちゃうよー。誘拐したんは、珱姫のお父上やで。強姦未遂してるしー」
 サラッと爆弾発言をかます秀元に、私の顔はムンクになる。ぬらりひょんの纏う空気が一層重くなり、恐る恐る彼を見ると嫣然と笑みを浮かべ、冷ややかな眼差しで死刑宣告をした。
「……殺す」
 怒りのバロメーターがあったなら、思いっきり振り切れていると思う。
「妖様、ダメです。止めて下さい」
「何故じゃ! 瑞を誘拐し、手篭めにしようとしたんじゃぞ」
「誘拐はされましたが、白雪のお陰で強姦も未遂に終わりました」
「……」
 納得がいかないのか、口をへの字にして押し黙るぬらりひょんに私は自分からギュッと抱きついた。
「私のせいで、妖様の手が血に濡れるのは嫌です」
「……瑞は、ずるい」
 スリッと首元に顔を埋めるぬらりひょんに、私はポンポンと彼の背中を軽く叩く。
 それを見ていた秀元が、
「何や、そうしてると親みたいやね」
とからかったのは言うまでもない。

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