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騒動の後は [ 94/259 ]


 猫又の乱入で流石に他の陰陽師に気付かれてしまった為、私達は花開院本家を後にしたのだった。
 薬膳堂に戻れば、オイオイと無き縋る妖怪たちの姿があり唖然とした。
「瑞っ!! 心配したのよ」
 雪羅が抱きついてきたかと思うと、ムギューッと胸に顔を押し付けられてあわや窒息しかける。
「瑞に触るな」
「何するのよ馬鹿大将! 相変わらず狭いわね、心が」
 ベリッと雪羅から引っぺがされ、今度はぬらりひょんに抱きつかれる。
 ぬらりひょんは、このときばかりは雪羅の毒にも反応しなかった。
「瑞姫、ご無事で何よりです。瑞姫の身に何かあったら、私は……」
 烏天狗は、ボロボロと泣き崩れている。
「誘拐されんなよ、面倒くせー」
「つーか、腹減った」
 ブツブツと文句を宣う一つ目や、自由に振舞う狒々に私は頭を痛めた。
「ハイハイ、今お夜食作りますから。妖様は、手を離して下さいね」
 ぬらりひょんの腕から逃れようともがくと、一層力を込めて抱きつかれて痛い。
「ちょっ…痛いです」
 ペシペシと腕を叩くも、彼は離れようとしない。
「桜たちのところにも行きたいんですから、さっさと放す」
 子供に言い聞かせるように告げると、漸く彼はシブシブと手を放した。
 が、しっかりと袖を掴まれているので逃げることも出来ない。
「じゃあ、行きますよ」
 ハァと溜息を吐き、ぬらりひょんを伴って自室へと足を運んだのだった。


 自室の戸をカラカラと開けると、泣きつかれたのか二人寄り沿いながら眠る子供達の姿に私は心を痛める。
 随分と心配を掛けてしまったようだ。子守をしていた豆腐小僧に声を掛けると、彼はペコリと頭を下げた。
「無事だったんですね」
「ええ、お騒がせしました。この子達の面倒を見てくれてありがとう御座います。大変だったでしょう」
「いえ……」
 苦笑いを浮かべる豆腐小僧に、私は相当手こずらせたようだ。
 泣き喚いても、ちゃんと寝付けるくらいには彼らに心を許しているのが分かる。
「後は、私が見ます。ありがとう御座いました」
 彼はチラリとぬらりひょんを見た後、一礼し部屋を出て行った。
「……ごめんね」
 乾いた頬を軽く撫でながら謝ると、傍に居たぬらりひょんが私を背中から抱きしめた。
「……瑞」
「はい、何ですか?」
 首筋に顔を埋めて無言になるぬらりひょんに、私は溜息を飲み込んだ。
 不安になると、抱きつく癖は今も昔も変わってないということか。
「妖様、腕を少し緩めて貰えますか?」
「嫌じゃ」
 予測していた切り替えしに、私は苦笑する。本当にしょうがない方だ。
「じゃあ、抱きしめなくて良いんですね?」
 そこまで言うと、腕が緩んだ。本当、こういうところは素直だ。
 クルリと向きを変え膝立ちのまま彼の頭を抱きこむ。
「一体どうしたんです。私は、ここに居ますよ?」
 サラサラの銀髪を撫でながらあやすと、彼は胸に顔を埋めながら言った。
「怖かった。帰ったら居るのが当たり前で、そこに居ないと分かって肝が冷えた」
 彼の言わんとしていることが分かり、私は眉を下げる。
「これからは、誰か一人下僕をつける。心配で外にも出れん」
 これは、何を言っても無駄だな。リクオといい、彼といい一人で勝手になんでも決めてしまう。
 それは良くも悪くもあるのだけど、それで気が済むのなら私は受け入れようと思った。
「それで、妖様の心は安らぎますか?」
「……分からん」
「心配から開放されますか?」
「少しなら」
「なら、好きにして下さい。不安になったら、こうして抱きしめてあげます」
 ポンポンと背中を軽く叩くと、縋りつくように掻き抱かれる。
「瑞……どこにも行くな。ずっと傍にいてくれ」
「……例え離れても貴方のもとに帰ります」
 いつか戻らなくてはならない身の上で、彼の言葉に約束はできない。
 だから、違う約束を被せることにした。別れを臭わせる言葉に、彼はどう感じただろう。
「瑞」
 名前を呼ばれ下を向くと、唇を重ね合わされる。
 ただ重ねるだけのそれは、どことなく神聖な儀式をしているかのようだ。
 私は、彼の気が済むまで口付けを拒むことはなかった。

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