小説 | ナノ

花開院秀元 [ 91/259 ]


「兄さん、ほんまに連れて来たんや」
 是光に保護という名の拉致をされた私は、花開院本家に来ていた。
 そこで彼の弟という花開院秀元と出会ったのだが、開口一番が冒頭の言葉となる。
「ほんまに連れてきたって……お前まさか!」
「うん、冗談やったんやけど」
 一体何を是光に言ったのか気になるが、話の流れから推測すると彼は良いように使われたようだ。
「あの、家に帰りたいんですけど……」
「うんうん、帰してあげるよー。そのうち」
 ホッとしたのも束の間、彼は私を家に帰してくれる気があるのだろうか。
「そのうちって……家族が待っているのであまり長居は出来ません」
 眉をハの字にする私とは対照的に、秀元は良い笑顔を浮かべている。
「ボクの用事が済んだらちゃんと帰してあげるさかい」
「おい、秀元……」
 呆気に取られていた是光が漸く復活し、秀元を諌めようと声を掛けるが相手の方が何倍も上手だった。
「珱姫の護衛に戻らなあかんのとちゃう。あのおっさん、高い金払ってるんやから〜って言い出すで絶対」
「クッ……」
「大丈夫やって。そのうち、瑞ちゃんの旦那とペットが迎えに来るし。それまで家に居たらええやん」
 遠見でも出来るのか、私の未来を予想する秀元に是光は暫く唸った後、
「くれぐれも、瑞姫に迷惑を掛けるなよ!」
と、言い残し彼は珱姫の元へと戻っていった。
 彼が出て行った後、ヘラヘラとした態度から一変しピリピリと張り詰めた空気へと変わる。
「瑞姫、あんた一体何者なん?」
 顔の作りが良いだけあって、迫力がある。
「人ですが何か?」
 ちょっと次元を超えた迷子で、さらにそこから時空旅行へと突入しましたなど言えるわけがない。
 彼の聞きたいことから外れていると思われる答えを返せば、案の定睨まれた。
「数ヶ月前に、時空が揺らいだのを感じた。原因を探ったらあんたがおったんや。右京の外れに住み着き大妖怪と謳われる斑を従えている。かと思えば、神獣も従えとる。あんた一体何者なんや?」
 秀元は、私が害をなす存在か否か見極めたいのだろうか。
「私自身は、何の力も無い人です。それ以上、言いようがありません。貴方が仰った通り、私は400年先の未来から来ました。でも、それは意図して来たわけではありません。雉鶏精の力の暴走に巻き込まれた結果です。そう遠くない未来に私は戻るでしょう」
「あんたの存在が、未来に影響したらどうするんや?」
 私が何か行動を起こすと、それが未来に影響し壊れるものが出てくるのではないかと言いたいのだろう。
 しかし、瑞姫の存在は400年先のぬらりひょんから聞いているのだ。私は、来るべくして来た―必然―ではないかと思う。
「私の存在は、未来でも語られておりました。ならば、ここに居るのも必然だと思うのです」
「……さよか」
 私の言葉に瞠目した彼は、またさっきのヘラヘラした難破な態度へと戻っていた。
「何かの思惑があって未来から来たって言うんなら排除せなあかんと思ってたんやけど。その必要はなさそうや」
「……はぁ(排除って、恐ろしいこと言うな。この人)」
 彼の言葉に顔を引きつらせるも、秀元は全然それに気付いておらず尚も喋り続ける。
「なあ、お腹空いたー。ご飯作ってや。ぬらちゃんが、来る度に飯集った挙句瑞姫お手製のご飯を自慢すんねんでムカつくと思わん?」
 ニッコリと人に飯を作らせようとする彼に、私はくらりと眩暈がした。
 いや、その前にぬらりひょん。あんたは、一体どれだけの人に私の話を触れ回っているんだ。
 帰ったら、ぬらりひょんを捕まえて聞き出さなくては。姿絵のこともあるし。
「なー、ご飯作ってーや」
 ご飯ご飯とうるさい秀元に根負けした私は、彼の式神に連れられ台所へ移動し料理を振るまう羽目になるのだった。

*prevhome#next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -