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少女、陰陽師と出会う [ 88/259 ]


 屋敷から連れ出された私は、有無を言わさず外に止まっていた牛車に押し込まれた。
 朧車に乗ったことはあるものの、牛車は初めてで乗り心地は最悪。お陰で、彼らの目的地に着く頃には車酔いしていた。
「さっさと降りろ」
 吐きたいのをグッと堪えながら、促されるままに牛車から降りると大きなお屋敷の前だった。
 屈強な門番の横を通り抜け、石畳の階段を上らされる。上りきると、庭を横切り離れへと連れてこられた。
 ドンッと背中を押され部屋の中に転がり込む。痛みに顔を顰めていると、頭上から声が降ってきた。
「これが、噂の瑞姫か」
「はい、旦那さま」
 私を連れてきた男は、目の前の貴族に恭しく頭を下げている。貴族は、私の顎を掴み上向きにしたかと思うと舐めるように全身を見ている。
「ほぅ、これは美しい。噂以上じゃ。ご苦労じゃった。下がってよいぞ」
「はい」
 貴族は、下僕を下がらせると私の前に腰を下ろす。
「私を連れてきてどうするつもりです」
 パシッと彼の手を叩き距離を取る。キッと睨みつけると、彼はニタァと卑下た笑みを浮かべて言った。
「珱姫以外に治癒姫が居るとなると稼ぎが悪くなる。消そうかと考えておったが、気が変わった。噂以上の美姫だ。ワシの妾にしてやろう」
 ねっとりとした卑猥な視線が絡みつき、私はゾワッと背筋が粟立った。貴族の視線が、気持ち悪いと思えたのはこれが始めてである。
「お断りします! 私を家に帰して下さい」
「青ざめて強勢を張る姿も悪くはないが、可愛い声で鳴かせたいものよのぉ」
 伸びる手に逃れようと身を捩るが、男と女の力の差は歴然で呆気なく捕まってしまう。
「少々幼い気もしなくもないが、楽しませてくれよ」
「ヒッ!! ……い、いやっ…イヤァアアアー」
 グッと帯を抜かれ、私は半狂乱になり叫んだ。ぬらりひょんや、リクオに際どい事までされた経験はあるが、私に受け入れる意思がないと最後まですることはなかった。
 でも、今は違う。目の前の男は、私の意志などお構いなしに欲望のままに蹂躙しようとしている。
「叫んでも誰も来やせん。大人しくしろ」
 荒い息が、肌に触れ私は大粒の涙を零す。ねっとりとした舌の感触が気持ち悪くて吐きそうだ。
 か細い声で助けてと呟くが、男の笑い声しか聞こえない。単を剥かれむき出しになった乳房に手を掛けた時だった。
 ガッと鈍い音を立てて貴族の体が仰向けに倒れる。白い鱗が私の身体を覆い、貴族を威嚇した。
「白雪」
 今にも噛み付かんばかりの様子の白雪に、貴族は青ざめた顔で悲鳴を上げる。
「うわぁぁああっ!! ば、化け物っ!! 誰か、誰かおらぬか。早う、早うアレを退治せよ」
 腰を抜かした彼は、半狂乱になり人を呼んだ。否、人は人でも陰陽師と呼ばれる者を呼んだ。
 白雪に元の大きさに戻るように指示をだしても、彼(彼女?)はガンとして聞かない。
 バタバタと渡殿を駆ける足音が徐々に近づいてくる。
「殿、ご無事ですか?」
 部屋に入ってきたのは、見事な剃髪をした男だった。
「おお、花開院殿!! その化け物を早く退治してくれ!!」
 花開院と呼ばれた彼は、私と白雪を見て目を大きく見開いている。半裸状態の有様で、白雪が庇うように貴族を威嚇しているのだ。
「元はと言えば、そこの方が私を誘拐し無理矢理襲おうとした。白雪は私を庇い助けてくれただけです。傷つけるような真似をなさらないで下さい」
 共衿を手繰り寄せながら一連の状況を説明すると、彼は思いっきり顔を顰め大きなため息を吐いた。
「何をしておる! さっさと退治せぬかっ!!」
 甲高い声で喚き散らす貴族に、彼は眉間に皺を刻んだまま静かな声で告げた。
「殿の命令でも、神獣に弓引くことは出来ません。……名を伺っても宜しいか?」
 白雪を神獣と言い、それに驚いたのは貴族だけでなく私もだった。妖怪にしては妖気が感じられなかったが、神獣なら辻褄が合う。
「瑞と申します」
「西の瑞姫か?」
「そう呼ばれることもあります」
 状況から何かを察知した彼は、険しい顔をして貴族を睨んでいる。
「殿、これは一体どういうことですかな?」
「あ、いや……それはだな…。そう! 珱姫の話し相手になってもらおうとだな」
「珱姫の話し相手なら彼女の着物が乱れる必要はないのでは?」
「ぐっ……それは…」
「彼女は、花開院で預かります。良いですね」
 有無を言わせない彼の言葉に、貴族も恨めしそうに私を見るだけで何も言ってこない。取敢えず、貞操の危機は免れたようだ。これが、花開院是光との出会いである。

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