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いつの間にか居座られてしまいました [ 87/259 ]


 食事の指導をするつもりだったのに、いつの間にか奴良組の妖怪たちに居座られていた。
 最初は、宴の延長で酔い潰れた彼らを泊めたのが発端で後はズルズルと居座られ今では我が物顔で屋敷を闊歩している。
 一体どうしてこうなったのだろうと後悔しても遅く、現状に頭を抱えていた。
「島原の屋敷に戻らなくて良いんですか?」
 私の膝で寛ぐぬらりひょんに声を掛けると、彼はゴロンと寝返りを打ち見上げながら言った。
「瑞がここにおるのに、何で島原に戻らねばならん」
 拠点にしてた場所が、島原にあるからでしょう。とは、突っ込みは入れなかったものの呆れた顔でぬらりひょんを見ても仕方が無いと思う。
「何じゃ、チューして欲しいのか?」
 唇を指でなぞり妖艶な笑みを浮かべるぬらりひょんに、私は薄っすらと頬を赤く染め視線を反らす。
 自分の魅力を知っていて尚且つそれを有効活用してくる辺り本当厄介な相手だ。
「戯れに付き合ってられません」
「ワシは、いつだって本気だぞ」
 ニヤッと嫌な笑みを浮かべたかと思うと、ムクッと起き上がり彼は私を押し倒した。
 覆い被さってくるぬらりひょんに、私はまたかと溜息を吐く。
「いつだって触れていたいし、口吸いしたいし、繋がりたい。好きな女なら尚更だろう」
 本気か冗談か分からない彼の態度に、私は眉を寄せる。私を好きだと言いながら、他の女の元へ通う彼の真意が分からない。
 不誠実だと言えばそうなのだろうが、それを言うだけの権利は私にはないのだから。
「私は―――」
「じっくり考えれば良いさ。気長に待ってる」
 私が受け入れることはないのを知ってなのか、ぬらりひょんは私の唇に手をあて言葉を遮った。
 気長に待つと言った彼の心情など、私には分かるはずもなかった。


 夜になると、彼らの活動が活発化する。毎夜、京の町に出ては妖狩りを行うのだ。
 桜や九重、雑鬼に小妖怪達と共にぬらりひょん達を送り出すのが、ここ数日の日課になりつつあった。
「瑞姫様、今日のお夜食は何ですかー」
「そうですね。今日は少し肌寒いのでお善哉にしましょうか」
 そう返すと、彼らはワーイと声を上げて喜んでいる。
「おぜんじゃい、しゅきー」
「しゃくらもしゅきー」
 キャイキャイと嬉しそうに手を叩き笑う桜と九重の頭を軽く撫で、私は中へ入るように促した。
 彼らが中へ入ったのを見計らい、門を閉めようとした時だった。
「もし……」
 男性の声が聞こえ、私は門を閉じる手を止めた。キョロキョロと辺りを見渡すが誰も居ない。
 首を傾げ門を閉めようとしたら、今度はハッキリとその姿を捉えることが出来た。
「アンタが、西の瑞姫だな?」
 屈強な男が、私の前に立ちはだかり門を閉めることもかなわない。
「……何用です」
「あんたを連れてくるよう親方様に言われているんだ。来てもらうぜ」
 ガシッと腕を掴まれ外へと引っ張られる。逃れようと身を捩るも、男の言葉で動きが止まった。
「抵抗するなら、ここにいる奴らを皆殺しにするぞ」
 そこ言葉に息を呑み、私は身体を強張らせる。私ひとりの力では彼らを守る力はない。
 こんなことなら、戦闘能力に長けた妖を一匹でも良いから残して貰えば良かった。
「分かりました。あなたと共に参ります。ですから、私の家族に危害は加えないで下さい」
 青ざめた顔でついて行くことを選んだ私に、
「良い子だ」
 彼はニヤッと笑みを浮かべ私の身体を担ぐと足早に屋敷を去ったのだった。

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