小説 | ナノ
人災は忘れた頃にやってくる [ 55/259 ]
「合宿ですか?」
桜を膝に乗せ白雪にお菓子を与えていると、清継が持参しているノートパソコンを見せて言った。
掲示板に書き込まれている内容をザッと読むと、どれも同じものばかりだ。
白雪も興味深々にそれを見ている。果たして文字を理解できているのかは不明だ。
タイムトラベルをした。不思議な雉に出会った。そんな内容ばかりで、それと合宿とどう繋がるのか謎だ。
「雉鶏精へ会いに沖縄へ行こうじゃないか。丁度、今週の金曜日から三連休じゃないか」
「雉鶏精って何っすか?」
島の疑問は、清十字怪奇探偵団の全員の疑問でゆらすら知らない名前のようだ。
「未来過去を自由に行き来する鳥の妖怪さ。これを見たまえ、場所が沖縄のある場所に集中している。それが、新城島だ。ここで、雉鶏精を見かけたりタイムトラベルをしたりする人間が続出している。我々もここに赴き、是非とも雉鶏精を見なければ」
妖怪を追いかける執念はある意味敬服するが、周りを巻き込まないで欲しい。
「桜がいるので私は……」
「桜も連れて来るといい。雉鶏精探しはオマケで、沖縄でバカンスをするのが目的だからな」
ハハハッと高らかに笑う清継を胡散臭そうに見ても仕方が無いと思う。
恐らく、男性陣だけで雉鶏精探しをするのだろう。リクオには悪いが、そういうことなら桜も連れて行っても良いかもしれない。
「青い海でバカンス〜 偶には良いところあるじゃん♪」
現金な巻は、すっかり沖縄に思いを馳せている。
「水着新調しなきゃ! 去年のは流石になぁ……」
「じゃあ、買いに行く?」
キャイキャイと盛り上がる女性陣に、私は桜を見やる。桜にも海を満喫させたいが背中の羽をうまく隠すことが出来ないので砂場で遊ぶことになりそうだ。
「藍ちゃんは、水着どうするの?」
「スクール水着を持って行きます」
そう断言する私に、一様に残念な顔をされてしまった。良いじゃないですか、スクール水着。お金も掛からず丈夫だし露出も少ない。
「藍、何言ってるの! スクール水着だなんて華がないわっ」
ガシッと肩を掴まれ詰め寄る氷麗に、カナが大きく頷いている。
「そうよ。折角の海にスクール水着を着るなんてダメ過ぎる! もっとお洒落しなよ」
氷麗の言葉に同意をするカナは、お洒落を強要する。珍しく意見が合った氷麗は、全くその通りだと力いっぱい頷いた。
「桜ちゃんも水着持ってへんのとちゃう? 一緒に買いに行ったらええやん」
「任せて、バッチリ見立ててあげるから☆」
「それは、私の役目です。家長は引っ込んでなさい」
「あら、私の方がセンスあるわ。藍ちゃんのエロ可愛く出来るのは私だけよ」
「何ですって!」
当人そっち退けで睨み合う二人に私は逃亡したくなった。これでは、悪夢の買い物が待っている。リクオをチラリと見やるとニッコリと笑っている。
その笑顔が胡散臭いのですが、言葉にすると何されるか分かったものじゃないので賢明な私は口を噤む。
「僕が似合う奴を選んであげるからね」
聞きたくなかった言葉に、私は恐怖すら感じる。貞操の危機ではないですか?
「よし! 明日、早速買いに行こうよ」
巻の提案に鳥居が乗り、
「良いね! 買い物行く人〜」
「「「はい」」」
手を上げたのは、氷麗・カナ・ゆらの三名。おお、女性陣は全員参加ですか。
「何ボサッとしてるの。藍も行くのよ」
「え?」
「そうよ! 可愛いの見立ててあげるからね」
「や…」
「桜ちゃんとお揃いのでもえんちゃう?」
「人の話を……」
「それ良いかも!! 俄然燃えるわ!」
「……聞いてくれないんですね」
当人を無視して盛り上がる面々に、私は大きな溜息を吐いた。
今回は、リクオが着いていくとごねなかったのが救いだと思ったが、それは大間違いで彼が用意した二種類の水着に唖然とする事となる。
何時買ったのかは分からないが、片方はワンピースタイプの至って普通に着れるもの。問題は、ビキニの水着。腰で結ぶタイプで絶対夜のリクオが好む奴だ。
どこから情報を仕入れてきたのか。ぬらりひょんも同じように際どい水着を渡して着ろと強要するのは遠くない未来のお話。
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