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仁義なき戦い [ 56/259 ]


 合宿という名のプチ旅行を明日に控えた私は、早めに寝ようと思って布団を強いていたらぬらりひょんと夜のリクオが二人仲良く……とは言いがたいが部屋に入ってきた。
 ぬらりひょんは、もう姿を偽る気がないのか本来の若い姿のままである。横に並ぶリクオと見比べると本当にそっくりだ。
 手にしている物を見る限り、私にとってあまり宜しくない状況であることには変わりなく、正直無視して眠ってしまいたいなどと現実逃避をしかけるが二人がそれを許すはずもなかった。
「何か御用ですか?」
「藍にこれを渡そうと思ってな」
 手渡されたのは面積の少ない真っ黒な水着だ。俗に言うマイクロビキニという奴だ。思わずぬらりひょんの顔面に投げつけてしまった。
「何するんじゃ。折角人が色々選んで持ってきたというのに!」
「盗って来たの間違いでしょう。で、リクオ様は何用ですか?」
「俺が渡した水着を行く前に来てもらおうと思ってな」
 飄々とした顔でそう宣うリクオに、私の顔がビシッと固まる。着ろと言われているのは、腰で結ぶタイプのビキニだろう。
 奴の前で着たら、どんな目に合わされるか分かったものじゃない。
「お断りします。明日は早いんですから、リクオ様もさっさと寝て下さい」
 シッシッと手で彼らを追い払おうとするが、相手は妖怪だ。常識が通じるわけもなく、リクオとぬらりひょんに捕まってしまった。
「遠慮すんな。俺が着せてやる」
「ワシが着せてやろう」
 そう言いながら人の帯を抜き取るのは止めて欲しい。この場に桜が居ないのがせめてもの救いだが、私に水着を着せたいがために桜を引き離したのかと思うと欲望に忠実すぎる二人である。
「そんな面積の少ない水着なんて絶対着ません! 分かったら出てって下さい、今すぐに!!」
 着物の前を押さえながら逃げようとするが、一人でも厄介なのにもう一人追加されると太刀打ちできない。
「じゃあ、着せるまでだな」
「ひゃうっ!? ゃ、ちょっ……ひんっ」
 ガシッと腕を掴まれ着物をひん剥かれる。一緒にボトッと落ちた白雪が見えて慌てるが、ハタッと自分の姿にそれどころではなかったと泣きそうになる。
 前方で待ち構えていたぬらりひょんが私を捕獲し無理矢理手にしていた水着を着せる。着せる次いでに胸を揉むのは止めて欲しい。
 下着にまで手を伸ばされ容赦なく摺り下ろされる。隠そうにもリクオに羽交い絞めされていて隠せない。一体なんの拷問だ。
「おお、絶景じゃな」
「見ないで下さい!! バカバカバカバカ…最低ですっ」
 無理矢理穿かされたビキニ(下)。滅茶苦茶面積が少なくて、見えそうなんですが。お尻は丸出しだし、何でこんなものを選んだのか趣味を疑ってしまう。
 しゃがみ込む私を気遣ってかウニョウニョと身体を動かし心配そうに白雪が私を見ていた。
「何しゃがみ込んでおるんじゃ。ほれ、くるっと回ってみろ」
「フニャッ!? な、何するんですかーっ!!」
 ぬらりひょんに引っ張り上げられ無理矢理くるりと一回転させられる。
「へぇ……似合ってんじゃねぇか」
 ニマニマと笑うリクオをキッと睨みつけるも、全然効果は無い。それどころか欲をそそるものがあったらしく、余裕綽々だった表情も崩れ危険な色を灯した目をしている。
「日本人の体型にぴったりの水着らしいが、藍にはちぃーとばかり小さすぎたか。特に胸が」
 小柄な身体に似合わず胸はそれなりに大きいため少しきつい。女になりきれない少女時代独特の色香にぬらりひょんも目を細める。
「ううっ……こんな事なら自分で着れば良かった」
 今更後悔しても遅いが、突拍子も無いことを仕出かす彼らには本当に困る。
「これ、どうなってんだ?」
 グイッとTバック状になっている紐を引っ張られ秘部を擦られ、私はぬらりひょんに凭れ掛かる。
「リクオ様、止めて下さいっ」
 後ろ手で隠そうとするが、悪戯が止むことは無く次第にエスカレートしていく。
「ヒャァ、ぁ…んんっ」
「気持ち良さそうじゃのぉ」
 胸を揉みながら私の反応を楽しむぬらりひょんに、このままでは貞操を奪われかねないと判断した私は最終手段海女を呼ぼうとした。
 しかし、私の行動などお見通しなのかリクオの無骨な手に遮られてしまう。
「む〜〜っ、んんーー!!」
「海女の奴を呼ばれたら面倒だ」
「確かに、畏れを解放された日にゃ気絶するものが続出するからのぉ」
 好き勝手に言うぬらりひょんとリクオに、私は益々絶対絶命の大ピンチに陥った。
「俺の選んだ水着も脱がせ易くて良いが、ジジイのも悪くないな」
「着てよし。見てよし。脱がせてよし。良いとこ取りじゃな」
 ぬらりひょんは、褒められて機嫌が良いようだ。どうにか逃げようと身体を捩るが、男二人に勝てるはずもなく良い様にされてしまっている現状だ。
 そろそろ本気で貞操の危機に直面した時、私を救ったのは白雪だった。
「痛ぇえっ!!」
 羽交い絞めしていたリクオの足を思いっきり齧り付いていた。あの鋭い歯が、ザックリと彼の脛に刺さっている。あれは痛い。
「この糞蛇がっ! 勘弁ならねーっ。皮を剥いでやる!!」
 リクオが白雪を掴もうとすると、彼(彼女?)は齧りついた脛を離しサッと身を翻す。スッとぬらりひょんの足元へ移動すると口をあーんと大きく開けてガブッと脛を齧りついた。
「っー!!」
 声を上げなかったものの、痛みで悶絶するぬらりひょんに私は漸く彼らの拘束から解放される。
「良い度胸じゃ。皮を剥ぐなんざぁ、生ぬるいことはせん。生きたまま酒に漬けてやろう」
 ぬらりひょんは、フフフッとどす黒い笑みを浮かべて白雪ににじり寄る。白雪も、シャーッと声を上げ威嚇している。
「ママーおふろはいったよ」
 カラッと襖を開ける桜に、私はゲッと顔を歪ませる。
「……お二人とも藍の部屋で何してるんですか」
 氷麗の絶対零度の微笑が、ぬらりひょんとリクオを捕らえる。ヤバイ。このままいくと部屋は彼女の雪で覆われる。
 私は、白雪と旅行鞄を掴み氷麗の後に非難した。
「た、助かった。氷麗ちゃんありがとう」
「この二人には、私がキッチリお灸を据えるから安心なさい。二人とも(死ぬ)覚悟は宜しいですか?」
 ゴゴゴッと怒りのオーラを纏う氷麗にリクオ達のことをかませ、私は桜を抱き上げ海女の部屋へ非難した。
 着物を羽織っているが、下がマイクロビキニと見るに耐えない格好をすれ違う妖怪達に晒す嵌めになる。
 避難所にされた海女は、私の格好を見るや否や部屋を飛び出し数分後、顔に返り血をつけて戻ってきた。
「う、海…その血は?」
「ああ、藍様は気にしなくて良いでありんす。しぶとい家庭内害虫駆除したときについた血でありんす」
 清々しいほど爽やかな笑顔で恐ろしいことを宣う海女に私は怖くてそれ以上のことを聞くことが出来なかった。
 翌日、顔を腫らしたぬらりひょんとリクオの姿にほんの少し同情してしまったのだった。

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