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落とし前の行方 [ 54/259 ]


 遠野から無事帰ってきただけでは話が終れば良かったのだが、天台がした仕打ちに激怒したのはぬらりひょんだけでなくリクオも一緒で、天台は二人に呼び出されていた。
 食事当番に当っていた私は、天台が呼び出しを食らっているなど知るよしもなく首なしと共に買出しにスーパーへ来ていた。
 大所帯なだけあって、一回の量が半端じゃない。冷凍できるものは冷凍するのだが、野菜類は流石に冷凍すると味が極端に落ちるので毎回買いに出ていたりする。
 買い物籠を乗せたカートを押しながら、今日の献立を特売商品から連想し冷蔵庫の中にある材料と買い足す材料を頭の中で組み立てる。
 ポイポイと籠の中に食材を入れていると、首なしにクツリと笑われた。
「なんですか?」
「いや、本当そうしていると親子だよね」
 キュッと私の着物の袖を握り締める桜は、キョロキョロと辺りを見回している。お菓子コーナーを時折ジィ〜と見ているが欲しいと駄々を捏ねない辺りそこらの子供より賢い。
「親子ですから。ね〜」
「ね〜」
 桜に笑いかけると、彼女もニコォと満面の笑みを浮かべ返してくれる。手にしていた特売の卵を眺めていると、ニョロッと白蛇が共衿から顔を出しア〜ンと大きく口を開けて卵のパックに齧り付こうとしている。
「だ、だめぇえーっ! それは食べちゃダメです!!」
 特売の卵を元の場所に置き慌てて白蛇から遠ざけると、彼(彼女?)はシュンッと頭を垂れて落ち込んでいる。
「藍、拾ってきたところに帰しておいで」
 子供に言い聞かせるような声で元の場所へ戻して来いという彼に、私はそれが出来たら苦労しないと苦笑を浮かべて返す。
「遠野の里辺りで行き倒れてたんです。この子がいるのをすっかり忘れてて、うっかり連れて帰っちゃったんですよね。帰すにしても早々行ける場所ではありませんし。特別害はありませんので、置いても良いんじゃないですか? 世話なら私が見ますから」
「そういう問題じゃないよ」
 ハァと溜息を吐く首なしに私は訳が分からないと首を傾げると、彼はこの間の騒動を引き合いに出してきた。
「その白蛇、総大将やリクオ様から皮を剥されかけた奴だろう?」
「ええ、全く二人して大人気ない上におバカなことを公衆の面前で宣うんですもの恥ずかしいったらないですよ」
「男として普通だから、それ。藍は、もっと男心を知った方が良いよ」
 呆れた目で私を見る首なしに、私は以前にもぬらりひょんと同じ事を言われたなと思い返す。
「大体なんで共衿に入ってるわけ?」
「さあ? 居心地が良いみたいですよ。基本的にご飯の時とお風呂の時以外は、共衿に居ますからこの子」
 モゾモゾと動くわけでもなく、寝ているのかジッとしている。お腹が空いたり、食べ物の気配が近くにあるとさっきのように顔を出してくる。
「いつまでも白蛇さんって呼ぶのもあれですよね。首なしさん、一緒に名前考えて下さい」
「君って子は……ハァ」
 思いっきり人の顔を見て溜息を吐く首なしに、酷いと軽口を叩きながらも名前をツラツラ挙げていく。
「白蓮、幸白、真臼、雪椿、白雪……ん? 白雪が良いの?」
 頭をフリフリしながら激しく身体をくねらす白蛇に、私は彼(彼女?)の名前を白雪と決めた。
「フフッ、白雪よろしくね♪」
 私の言葉に反応するかのように白雪の身体が揺れる。
「へびたんのおなまえ、ちらゆきなの?」
「そうよ。桜も仲良くしてね」
「しゃくらするー!」
 元気なお返事に満足する私を首なしがサックリと突っ込みを入れた。
「藍、白雪を飼いたいならまず共衿から出して飼いな。そうじゃないと、後でどうなっても知らないよ」
 抽象的な忠告に首を傾げると、彼は分からないなら良いよと置き捨てた。
 ひょんな場所で白蛇の名前が決まった後、私は大量の食品を買い漁り二人して荷物を抱え込みながら奴良邸へと戻った。


 玄関を開けると、見慣れた履物を見つけて首を傾げる。
「どうしたんだい?」
「いえ、天台さんの履物があったので……。今日って総会ありましたか?」
「無いよ。何も聞いてないし」
 嫌な予感がして私は首なしに荷物を預ける。
「済みません。ちょっと、ぬらりひょん様のところへ行ってきます」
「へ? ちょっ、藍!?」
 首なしの制止も聞かず廊下を走る。途中で出会った妖怪達のお帰りという言葉を適当に流しながら、ぬらりひょん様の部屋を訪れる。
「ぬらりひょん様、藍です。いらっしゃいますか?」
 襖の外から声を掛けても返事が無い。失礼しますと一声掛け襖を開けるが蛻の殻だ。
 リクオの部屋も寄ったが居ない。あと考えられるとしたら客間か大広間だ。
 客間に足を運び襖の外から声を掛けると二人とも居た。
「藍か、どうした?」
 上座に座るぬらりひょんに、私はこっちの台詞だと突っ込みを入れる。
「総会でもないのに、何故天台様がここにいらっしゃるのですか?」
 ただでさえこの時期は忙しいのだ。天台がこっちに来ていると、鴆にも負担が掛かってくる。
「今回の落とし前について話し合ってたんだ」
「……何ですか、それ」
 半眼になる私を他所に、リクオは天台を睨みつけながら言った。
「じいちゃんから話は全部聞いたよ。天台は、藍に遠野の里に一人で行かせて薬草を受取らせたんだって? 元々は、天台一人で受取りをするはずだ。藍は里に入らず外で待機。遠野は奴良組の威光が通用しない場所だ。人を食らう妖怪も居る。襲われて殺されてもおかしくなかったんだよ」
「……」
「鴆君の部下だから信頼していただけに裏切られた気持ちでいっぱいだよ。天台を呼んだのも、キッチリ落とし前付けさせるためだよ」
 彼らの言う落とし前がどういうものなのかは分からない。でも、私はそんなことをして欲しいとは思わない。
「リクオ様、お言葉ですが鴆様の忠臣だからこそ天台さんは私を試したのです。薬鴆堂を愛し、奴良組を思っているからこそ、私が次期頭領に足りるか判断したかったのではありませんか? 人だからと侮る者は沢山いらっしゃるでしょう。私は人であり、女であり、戦う術を持たない者です。妖から見てとても弱き存在に映るでしょう。ですが、弱き存在だからこそ短い一生の中で成長し見合う価値を見出せる。天台さんに落とし前を付けさせるというなら、私にさせて下さい」
 天台を庇うものだと思っていたリクオとぬらりひょんは目を大きく見開きマジマジと私を見つめている。
「分かった。好きにしろ」
 ぬらりひょんの了解を得た私は、天台に向き直り落とし前の内容を言い渡す。
「薬箱の交換が終ったら、遠野の温泉巡りしてきて下さい。名目は謹慎処分ですけど、温泉の効能を調べてきて下さいね」
「は?」
 ポカンッとする天台に、外野は黙ってない。
「何じゃそりゃ!! 全然罰になっとらんじゃねーかっ!」
「そうだよ! 温泉に行けって、何考えてんの!」
「あら? 好きにしていいって仰ったじゃないですか。遠野のお風呂に入った次の日、お肌が滑々になったので是非温泉の成分を調べて入浴剤を開発したら良いシノギになりますよ。天台さんならその辺りしっかり調べてくれそうですのでお願いしますね」
 シレッとした顔で宣う私に、ぬらりひょんはムググッと唸り声を上げてガクッと肩を落とした。
 まあ、好きにしろと言ったのは自分なのだ。今更撤回するわけにも行かないのだろう。
「天台さん、私を受け入れるには時間が掛かると思います。人という括りではなく佐久穂藍という私を見てもらえませんか? まだまだ貴方について教えてもらうことはいっぱいあるんです。次からは、試すようなことはせず、ちゃんと言って課題を出して下さい」
 真剣な目でそう問い掛けると、彼は大きな溜息と共に苦笑を浮かべ深々と私に頭を下げた。
「鴆様の目は狂いはなかった。貴女なら薬鴆堂を任せられる。藍様、数々のご無礼申し訳ありませんでした。この天台、藍様に忠義を誓いましょう」
 反応に困った私を他所に忠義を誓う天台。海女の他に新たな下僕2号が誕生した瞬間だった。

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