小説 | ナノ

深夜の来訪者 [ 49/259 ]


 地面を揺るがす大きな音と共にバタバタバタと小さな子供が走る足音が聞こえ、就寝していた私はパチッと目を覚ました。
 物凄く嫌な予感がする。このはた迷惑極まりない騒動は、自分に関係している気がしてならないのだ。
「何かあったのかしら?」
 近づいてくる気配に神経を張詰める冷麗に、私は乾いた笑みを浮かべながらポツリと呟いた。
「多分、私関係で何か起こってるのではないかと思います」
「は?」
 どう説明しようかと思っていたら、スパンッと襖が開き見覚えのある桜色の髪をした幼女が飛び込んできた。
「ママァー!!」
 ヒシッと胸に縋りつく桜に、私はやっぱりと頭に手を押さえて溜息を吐く。
「桜、何でここに居るのかな?」
「ママをむかえにきたのー!」
「誰と迎えにきたのかな?」
「とーしゃま」
「そう……ぬらりひょん様と」
 次第に声が低くなるのは仕方が無いと思う。ぬらりひょんが、桜をつれて遠野に押しかけるとは予想外もいいところだ。
「桜、ぬらりひょん様はどこにいるの?」
「んー、あかがっぱしゃんのところへいくっていってた」
 ニコニコと笑う桜を抱き上げ、私は赤河童のところへ行くことにした。
「冷麗さん、紫ちゃんお騒がせしてごめんなさい。騒動の元凶のところへ行って参ります」
「「いってらっしゃい」」
 二人とも顔が引きつっているように見えるが気にしないことにする。
 桜を抱きかかえ廊下を歩いていると、野次馬が騒動の元へと集まっていた。
 その中に淡島の姿を見つけ声を掛ける。
「どうされましたか?」
「ぬらりひょんが、物凄い剣幕で殴りこんできたんだと」
 少々興奮気味な淡島に、私はヒクッと顔を引きつらせる。殴り込みって、私を迎えに来ただけならする必要はないだろう。
「誰だこいつ?」
 仮面ライダーを髣髴とさせる河童が声を掛けてきた。雨造だ。会うのは初めてだが、知識としてはあるからこの能力はある意味便利だと思う。
「薬鴆堂の遣いの藍と申します。こっちは、瑞鳥の桜です。桜、ご挨拶なさい」
「しゃくらです」
 ニコォと可愛い笑みを浮かべる桜に、私はよく出来ましたと褒めてやる。
「瑞鳥って言えば神獣だろう。何で遠野にいるんだ?」
 首を傾げる雨造に、私は苦笑を浮かべる。口で説明するより、実際に見てもらった方が早いので道を開けてもらうようにお願いした。
「ぬらりひょん様のところへ行くので、一緒に来ますか?」
「おう! 面白そうだしな」
 面白いもの大好きな二人は、即答で付いてくることを選択した。好奇心は猫をも殺すと云うが、彼らの旺盛すぎる好奇心には赤河童もさぞ手を焼いているに違いない。
 冷気というか殺気漂う大広間の襖に手を掛け、無言で開くと仁王立ちしたぬらりひょんが上座に座る赤河童に殺気を放ってた。一触即発の緊迫した雰囲気に、私は思わず溜息を漏らす。
「何なさっているのですか、ぬらりひょん様」
「藍、無事だったんだな。心配したぞ」
「何なさっているのかと聞いているのです」
「それはじゃな……」
「いきなり人様のお宅に押し入り喧嘩売るとは何事ですか!! 桜まで連れ出して!」
「す、すまん」
 私の剣幕に気圧されたぬらりひょんは、冷や汗を掻きながら謝罪する。謝罪する相手が、違うだろう。
「私にしてどうするんです。する相手が違うでしょう」
「……………………………………………………赤河童、すまん」
 長い葛藤の末に漸く謝罪の言葉を口にしたぬらりひょんに、私は大きな溜息を吐いた。
「凄い音してましたけど、まさか物を壊したりしてませんよね? ぬらりひょん様」
「……」
 視線が明後日の方向を向いている。これは、何か壊したな。
「壊したもの、ちゃんと直して下さいね」
「……はい」
 ぬらりひょんを軽く睨みつけた後、赤河童に頭を下げる。
「赤河童様、夜遅くの訪問と無礼な振る舞い本当に申し訳ありませんでした」
「よいよい、慣れとるからな。藍は、愛されとるな。こやつが、ここまで感情を露にするのは珍しい」
 ぬらりひょんの行動をあっさり許してくれた赤河童だが、彼の言葉に私はどう反応をすれば良いのか悩んだ。
 可愛がられているとは思うが、愛されているとは違う気がする。
「迎えが来たし、どうする? 帰るか?」
「いいえ、残ります。薬を受取ったら、お暇させて頂きます」
 自分の仕事を放り出して帰る気はないと示すと、ぬらりひょんが文句を垂れた。
「薬を届けさせれば良いじゃろう」
「これは、私の仕事です。薬を受取り戻ると鴆様と約束しております。自分の仕事を全うするまでは帰りません」
 キッパリと言い切ると、ぬらりひょんの顔が歪む。機嫌を損ねた時のリクオとそっくりだ。
「……ワシも残る」
「言うと思いました。ハァ……赤河童様、申し訳ありません。この子とぬらりひょん様の滞在も許可頂けませんでしょうか?」
「構わぬが、おぬしも大変じゃのぉ」
 哀れみというか同情の眼差しを向けられて、私は苦笑いを浮かべる。
「部屋は、藍と一緒で良い。一部屋貸せ」
「えっ?」
「廊下の突き当たりの部屋が空いておる。布団を持ってこさせるから、そこを使え」
「ええっ!! ちょっ、ちょっと待って下さい。何でぬらりひょん様と一緒なんですか?」
 腐っても乙女。異性と寝るのは遠慮したいお年頃である。勝手に話を進める二人に断固拒否と声を上げるが、
「人様ん家に邪魔するんじゃ、我侭言うな」
と先ほどまで人様宅で暴れていた奴が言う言葉ではないと思う。
「とーしゃまといっしょ♪」
 この状況に桜だけが能天気に喜んでいて、私は恥ずかしいやら腹立つやらで心中複雑な気持ちを抱えたまま押し切られるように同室となるのだった。

*prevhome#next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -