小説 | ナノ

愛情の温度差 [ 25/259 ]


 総会って早く終るものだっけ? 鴆を廊下で見た時点で、総会はすでに終っていたのかもしれない。
 リクオの部屋で待っておこうかな…なんて甘い考えで彼の部屋を訪れたのが間違いだった。
「(なんで居るの!?)……リクオ様、生八つ橋をお持ちしました」
「いきなり入ってくるたぁ積極的だな、藍」
 ニヤッと意地の悪い笑みを浮かべて酒を飲んでいる夜のリクオに、私は心の中で悲鳴を上げる。
「総会が、こんなに早く終っているとは思いもよらなかったものですから。済みませんでした」
 平静を装いながら中に入り彼の傍まで行くと、グイッと腕を掴まれ引き寄せられる。
 手の中にあった、生八つ橋と野菜のカップケーキを取り上げると彼は私を膝の上に乗せ抱きしめてきた。
「何で膝の上に乗っているんでしょうか?」
「そういう気分だから」
 シレッと返されてしまい、私は頭が痛くなる。抵抗したところで無駄に体力を使うのは、経験上分かりきったこと。ならば、リクオの好きにさせておいた方が彼の機嫌も悪くならずに済む。
「若様」
「リクオだ」
 しっかり訂正を入れるリクオに、私はハイハイと受け流す。
「……リクオ様に報告があるんです」
「お前、また誑し込んだのか? 相手は誰だ?」
 金色の目つきが、鋭くなる。あんまりな物言いにムッとするが怒っては逆効果だ。
「人聞きの悪いことを仰らないで下さい。そうじゃなくて、ゆらさんのお弁当を作ることになりました」
「ハァッ!? なんでアイツにお前の手作り弁当を食わせなきゃなんねーんだよ!」
 やっぱりと云うべきか、リクオは怒り狂っている。
「若菜様の案です」
 私が言い出したことじゃないと進言したら、あっさり切替されました。
「どうせおめぇが、ゆらの食事事情を暴露したんだろう。母さんが、それを聞いて何もしないわけねー」
 若菜の事をよく分かってらっしゃると褒めるべきか、リクオは苦虫を噛み潰したような顔でブチブチと文句を垂れた。
「ゆらさんが、栄養失調で倒れたら若様の負担も増えるんですよ? 皆に表立って妖の姿を見せるわけにはいかないんですから」
「そうだが……」
「なら、良いじゃありませんか」
 ムゥッと不満気な顔をしたかと思うと、彼はゆらの存在有り無しでどちらが得か瞬時に考え答えを出したようだ。
「おめぇが、そこまで言うなら仕方がねぇ。ゆらの弁当の件は分かった。ただし、俺と一緒のもん作るなよ」
「分かりました」
 ゆらの弁当の件は、彼自身納得してくれたから一安心だ。肝心なのは、もう一つのこと。
「後ですね」
「何だよ?」
「………鴆一派の頭領様とお会いしまして、次期頭領候補のため夕食後は鴆様のところで薬学修行することになりました」
 ピクッと彼の眉が釣りあがり、怒りを押し殺した声で私を詰る。リクオは、私を何だと思っているのだ。
「本家のやつらだけじゃ飽き足らず、鴆にまで手ぇ出してんのかい」
「変な言いがかりつけないで下さい! 私は、承諾した覚えはありません。私を鴆様の下で学ばせるのがお嫌なら、直接彼に言ったら良いではありませんか」
 寧ろ、次期総大将になるリクオが否と言えばそれで済む話。ただでさえ、これ以上厄介事に関りたくないのだ。
 鴆のところで修行するなんて、好んで巻き込まれに行くようなものである。
「当たり前だ!! そもそも、お前を鴆のところにくれてやる気はねぇ。つーか、俺の隣以外居場所はねぇんだよ」
 何だそのワンマンな発言は。ちょっと顔が良いからって、図々しいにも程がある。
 夜のリクオにカナや氷麗が惚れる理由が今一分からない。
 俺様過ぎる男なんて扱いづらい上に、身を滅ぼすだけである。
「……ハァ。もう、勝手に言ってて下さい。明日、リクオ様から鴆様に断りを入れて下さいね? 私が、嫌だと言ったところで聞き入れて下さるような方ではありませんから」
「てめぇ、犯すぞ」
「そんな事したら、嫌いになります」
 キッパリと言い放つと、リクオはグッと言葉を詰まらせる。その後、膝に乗せていた私を畳の上に下ろし、出て行けと言った。
 ここで出て行ったら、もっと悪化しそうで私は首を横に振った。
「嫌です」
 リクオは、苦しげに顔を顰めたかと思うとおもむろに立ち上がり部屋から出ようとした。
「どこ行くんですか?」
「……お前には関係ない」
 どこか拗ねたような声音に、私はつくづくリクオに甘い気がする。
「リクオ様が、仰ったじゃありませんか。私の居場所は、貴方の隣だと。それなのに、私を置いてどこかへ行ってしまわれるんですか?」
 そこまで言って、漸く戻ってきた彼に本当手間が掛かると心の中で呟いたのは秘密である。

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