小説 | ナノ

強引な方に弱いんです [ 24/259 ]


 若菜にカップケーキを持って行く途中で、ちょっと変わった男の子二人に出会った。
 髷を結っている勝気な少年と馬の骨で顔を隠している少年。牛頭丸と馬頭丸だ。対面するのは初めてで、人を見下す傾向にある彼らと鉢合わせるとは思いもしなかった為、内心冷や汗を掻きながらペコリと一礼して去ろうとした。
「待て」
 牛頭丸の静止に逃亡する気だった足は、ピタリと止まり彼らの方に身体を向き直す。キャラクターは嫌いではないけれど、正直なところ関りたくない。
 清継と関わって以来、どうも厄介事(主に妖怪関係)に巻き込まれることが多々あるのだ。
「何か御用でしょうか?」
 スマイル0円を体現しつつ、どうやって話を切り上げて逃げようかと頭の中で算段する。
「お前が、リクオが拾ってきたって云う人間か?」
 拾得物扱いされるのは、もはやリクオだけではないようだ。
「神月藍と申します。ぬらりひょん様とリクオ様のご好意で、住まわせて貰ってます」
「牛鬼様が、気にされていたからな。ふーん……顔は、人間の割りに悪くはないな」
 褒めてるんだろうが、一々突っかかるもの云いは何とかならないのだろうか。早く若菜のところに行きたい。そう思っていると、牛頭丸の少し後に居た馬頭丸が私に近寄りクンクンと臭いを嗅いでいる。
「藍、美味しそうな匂いがする。僕、お腹空いてるの。それ頂戴」
 手にしていたカップケーキを指差して強請る彼に、私は呆気に取られる。本家だからと言って、初対面のそれもリクオが拾ってきたという得たいの知れない女から食べ物を貰うってどういう神経をしているのだ。
 無言になる私をよそに、彼は首を傾げてくれないのかと問うて来た。
「ねえ、くれるの? くれないの? どっち?」
「あげますから、にじり寄らないで下さい」
 馬頭丸の手にカップケーキを乗せると、彼は小さな子供のようにはしゃぎ始めた。
「普通、得体の知れない人間から食べ物を貰うのはどうかと思いますけど……」
「全くだ」
 牛頭丸も呆れ口調で馬頭丸の無防備さに顔を顰めて同意する。
「貴方も食べますか?」
「要らん」
 警戒されてるのか、それとも甘い物が苦手なのか、キッパリと断られた私は当然の反応だと笑う。
「フフッ…ですよね。でも、お腹が空いたときにでも気が向いたら食べて下さいな。食べずに捨てても構いませんし」
 私は、牛頭丸の手を取りポンッとカップケーキを渡し彼が唖然としているのを良いことにさっさとその場を去った。


 若菜にカップケーキを届けた後、一つ余ってしまった。リクオには、生八つ橋があるのでカップケーキまで食べたらお腹いっぱいになるだろう。
 自分が食べるという選択肢もあるのだが、夜に食べると太ってしまうので却下。
「うーん……どうしようかな」
 少し悩みながら歩いていると、金に近い茶色の髪をした青年と衝突してしまった。
「ウキャッ!?」
 グラッと身体が後に傾き転倒しそうになるのを、彼が受止めてくれたお陰で何とか免れた。抱きこまれる形になったのは仕方が無い。
「大丈夫か?」
「えっと、済みませんでした」
 頭を下げる私に、彼はポンポンと頭を軽く撫でる。小さな子にするような仕草に、ほんの少しムッとするも前方不注意でぶつかったのは自分なのだから文句は言えない。
「あんたみたいなドン臭い奴が、本家に居るとはな。大丈夫なのか?」
 それは、奴良組のことを指しているのか。それとも、私自身のことを指しているのかどちらか分からないが、要らぬ心配というものだ。
 胸の辺りに痣らしきものに見覚えがあった。鴆だ。リクオ以外で、着物を着崩していても似合う一人だ。
「ドン臭いのは認めますが、皆さん良くしてくれますので大丈夫ですよ。私は、神月藍と申します。お名前を伺っても宜しいですか?」
「ああ、そういやぁお前さんは俺のこと知らねーんだよな。俺は、リクオの義兄弟で鴆ってんだ。よろしくな」
「噂のお医者様ですね。お目にかかれて光栄です」
 ニカッと笑う鴆に、釣られて笑みを返すと彼は目を見開いた。次いで、剣呑な目で私を睨んでいる。
 どうやら余計なことを言ってしまったらしい。
「何で俺が医者だって分かるんだい?」
「薬草の匂いがしたので、医療に携わる方ではないかと推測しました」
 そう言うと、彼は納得したのか目元を和らげる。
「お前さんは、鼻が良いんだな。薬と一口で言っても沢山あるが、何の薬だと思う?」
 いきなりの謎掛けに、私は眉を寄せる。急にそんなことを言われても困る。クンッと彼の身体から香る匂いをかぎ、思い当たるものを片っ端から上げた。
「大豆を炒った匂いに混じって、ゴマの香りがしますね。トウキ・ケイヒ・ダイオウ・シャクヤク・ジオウ・ゲンジン・ビャクシ・ゴマ…油でしょうか。これは、傷薬の軟膏です。後、黒豆茶でしょうか?」
 どちらも前の世界で愛用していたものと似た匂いがする。
「まさか、調合している薬草まで当てられるとは思わなかったぜ。リクオが拾ってきた女だってのは知ってたが惜しいな。今からでも遅くねぇ。俺の後継になんねーか?」
「は?」
「医者だよ。医者。薬鴆堂を開いちゃいるが、俺の後継になれるほどの奴はまだ居ねぇ。お前、料理も上手いんだろう? 薬を調合するのと、料理をするのは似ているからな。加えて抜群の嗅覚に記憶力。俺が、一から教えてやる。な!」
「え? ええっ!!」
「よし、全は急げって言うしな。明日から夕飯の後は、俺のところでみっちり叩き込んでやる。じゃあな、藍。逃げんじゃねーぞ」
 ワハハッと笑う鴆に、私は呆気に取られて言葉を失っているうちに押し切られてしまった。
 この世界に着てから、清継に続いて押し切られっぱなしだ。
「……若様に怒られる」
 こんな事なら若菜にお菓子を渡してさっさとリクオに会いに行けば良かった。今更後悔しても時既に遅し。
 ゆらのお弁当に次いで、医者修行をさせられる羽目になったことを報告しに行くことにした。
 数分後、リクオの冷やかな目とお仕置きと称したセクハラを受ける羽目になるのだった。

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