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雪女のご機嫌の取り方・若様のヤキモチ [ 26/259 ]


 ゆらのお弁当については最終的に許してくれのだけど、あっちを立てればこっちに波風が立つ。
 朝、ゆらにお弁当を手渡したら、それを見ていた氷麗とカナに詰め寄られた。
「何でゆらちゃんにお弁当渡してるの?」
「そうです。納得いきません!」
「ゆらさんの食生活が心配で、お節介かと思いつつもお弁当を作ることにしたんです。夏本番で栄養失調で倒れられては困りますし、清継君が暴走してまた妖怪関係の類で厄介事を持ち込まないとも限りません。彼女は、清十字怪奇探偵団の要ですもの」
 本当の要は、リクオなのだが彼とて表立って動けない。ゆらは、妖怪に対する非情さ考えものだが凶悪な敵に遭遇した時に使い物にならなければ意味がないのだ。
「……でも、ゆらちゃんだけ藍ちゃんのお弁当を食べれるなんてずるい」
「珍しく家長と意見が合いました。私も同感です。陰陽師の小娘に藍の弁当を食べさせてやるなんて勿体無い!」
 氷麗は、私のお弁当を食べてるのに何故そんな事を言うのか分からない。
「そう言われても……、あ! では、私のお弁当を交換しましょう。自分で作るお弁当は、中身が分かっているので開けた時の楽しみがないんです。お弁当を交換すれば、何が入っているか分からないので毎日お弁当の時間が楽しくなりますよ。どうでしょう?」
「それなら文句はないわ」
「文句大有りです! 何で家長にまで藍の弁当をくれてやらねばならないんですかーっ!! 嫌です! 絶対に許しませーんっ」
 ブチッと切れた氷麗が大声で喚く。それもボロボロと涙を零してだ。
 流石に、そのままにしておくのは不味いので彼女を手を取り人気の少ない場所へと移動することにした。
 使用されてない教室に彼女と共に入ると、更に泣かれた。
「氷麗ちゃん、何もそんなに泣かなくても……」
「だって…ヒッ…藍は、私のなのに家長や陰陽師までに優しくするんですか?」
 私のって……貴女まで物扱いですか、と心の中で思わず突っ込んでしまった。最近突っ込み癖が酷くなっている気がする。
「カナさんやゆらさんは、私のお友達です」
「私も家長や陰陽師と一緒なのですか!?」
 必死の形相に私は微苦笑を浮かべ、彼女の頭を軽く撫でた。
「馬鹿ですねぇ。氷麗ちゃんは、掛替えのない私の家族です。カナさんやゆらさんと比べる必要はありません。だって、家族と友達は違うでしょう?」
「……うん」
「なら、もう泣かないで下さい。折角可愛い顔が台無しですよ」
 ポケットに入れていたハンカチを取り出し氷麗の涙を拭ってやる。
「ありがとう」
 少し目を赤くした氷麗が、やっと笑顔を見せてくれた。私は、ホッと息を吐く。
「ゆらちゃんにお弁当を作ってあげたのは、単に食生活が心配だからという理由だけじゃないんです。もし、彼女が倒れたら氷麗ちゃんや若様に負担が掛かるでしょう? 清継君や他の団員を守るのに、ゆらさんが居るのと居ないのでは負担の度合いは違うと思います」
「あれは、私のため?」
「(ちょっと違うけど)そうです」
「でも、やっぱり藍のお弁当を家長にくれてやるのは許せない!」
「私、自分のお弁当はあまり凝ったものは作りませんよ。氷麗ちゃん達のお弁当は、手が込んでますし時間も掛かってるんですよ。愛情もたっぷり入ってますからね♪」
 あくまでカナより氷麗を優先しているのだと暗に言えば、彼女はとっても嬉しそうに笑いそれならとお弁当については許してくれた。
 彼女の方が年上なのに、なんだか手の掛かる妹が出来たみたいだ。


 氷麗を慰めた後、今度はリクオのヤキモチに頭を悩ませた。
 彼女を教室まで送った後、自分のクラスに戻ろうとしたらリクオに腕を掴まれ何故か屋上にいる。
「若様、授業始まりますよ?」
 唇を噛締め無言を貫くリクオに、私は彼が何故不機嫌なのか察していた。氷麗を慰めていたのが気に食わないのだろう。
「リクオ様、ヤキモチですか?」
「そうだよ。悪い?」
 開き直ったのか、ヤキモチを焼いていることを認めたリクオに私は可愛いと思ってしまった。
「氷麗ちゃんが泣いてしまったので慰めてただけです」
「別に放っておけば良いだろう」
 彼には珍しい冷たい態度に、私は重症だと苦笑いを零す。このまま放っておくと、周りに被害が出そうなので早速ご機嫌を取ることにした。
「ねえ、リクオ様。1限目の授業、サボっちゃいましょうか?」
「えっ?」
「こんなに良い天気なんですもの。眠くなっちゃいません? 今なら私の膝枕付きです」
 これで釣られてくれたら良いのだが、恥ずかしいのを我慢して持ちかけると彼はコクリと小さく頷いた。
「じゃあ、こっちです」
 屋上に通じる入口から正反対の場所は死角になっていて人に気付かれにくい。サボるには、絶好の場所だ。
 私は、そこに腰を下ろすとポンポンと膝を叩いてみせる。
「……藍は、僕をコントロールするのが上手いよね」
 ゴロンと私の膝の上に寝転んだリクオが、不貞腐れた様子で文句を言う。機嫌は直ったようで、少しホッとした。
「そうでしょうか? リクオ様には、いつも振り回されっぱなしですよ」
「僕の方が、振り回されている!」
 納得しかねるその言葉に、私は反論することなく寝てしまえとばかりに彼の頭を軽く撫でた。
 穏やかな時間が過ぎ、私とリクオはいつの間にか結構な時間を屋上で過ごしてしまい、後で先生から大目玉を食らったのは言うまでもない。

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