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人魚姫IF*もしも宮子姫が生きてたら@ [ 32/34 ]


 ぬらりひょんが、羽衣狐を満身創痍で倒し魑魅魍魎の主となった。
 私は、情けないことに気絶し目を覚ました時には実家でも花開院本邸でもなく、ぬらりひょんの家だった。
 あばら骨を数本折り、そのうちの一本が内臓を傷つけていたらしく、少し動いただけでも痛い。
 ゆっくりと身体を起こし突如ガラッと障子が開き驚いた。
「宮子姫、入るわよ」
「言うと同時に入ってくるなよ」
 入ってきた雪麗に対し、思わず突っ込みを入れたら大層驚かれる。そりゃそうか、今まで起きなかったんだから。
「え? ええっ!? 宮子姫、何で起きてるのよぉおぉお」
 ガシャンッと水の入った桶が畳を濡らす。布団まで侵食しそうな勢いに、思わず布団を水溜りから遠ざけていた。
 その様子を見ていた雪麗が、露骨に顔を顰めた後、大きな溜息を吐いた。
「あんたねぇ、重度の怪我人なのよ。何で起き上がってんのよ」
 零した水を手拭で拭き文句を言ってくる。
「うん、分かってる」
「分かっているなら何で起き上がっているのかねぇ。珱姫もあんたの傷治してくれれば、もっと早くに目を覚ましていたのに……」
 その時の情景を思い出したのか、秀麗な顔を歪ませ忌々しげに舌打ちしている。
「雪麗、そんな風に言うんじゃねーよ。あの死闘の後だぜ。怪我人は多く出ただろうし。それに珱姫の力は、負担が大きいんだから無理云うな」
「そうじゃない! あの女、あんたを治すの嫌だって言ったんだから」
 あの心優しい珱姫がそんなことを言ったのか。ちょっと意外だ。まあ、そう言われても仕方がない気もしなくもない。
 あの大事な場面で、私を珱姫と間違え誤解を招くようなことを言ったのだ。彼女の心情は計り知れない。
 私なら嫉妬で相手が死ねばいいと思うくらいしているだろうし、逆に私が珱姫だったら見殺しにした。
「言っただけで、ちゃんと治してんじゃん」
「は? 治ってないじゃん」
「治ってるさ。折れた肋骨が内臓を傷つけてこりゃ死ぬなーって思ったもん。折れたところの痛みしかないってのは、そいうことじゃないのか? 高々数日で起き上がれるまで回復するわけねぇだろう。ただ、怪我が酷すぎて直ぐに治せなかったというのが本当じゃね?……なあ、珱姫。んな、ところに突っ立ってないで入ってこいよ」
 私の言葉に雪麗が振り返り、障子の外の人影を確認したのか、驚きすぎてまた水入り桶を落としている。
 武道派なのだから、私より気配が鋭いはずなのに気を抜きすぎだろう。
「……よく分かりましたね」
「気配には敏感なんだ。雪麗、それ珱姫が片付けて貰うから何か食うもん持ってきて。腹減った」
 私の意図を読み取った彼女は、物凄く嫌そうな顔をしたが珱姫に桶を押し付け射殺すように彼女を睨んだ後、ドスドスと荒々しい足音を立てて部屋を出て行った。
「何のつもりです」
 地を這うような低い声に、私ははぐらかすことはせず単刀直入に切り出した。
「あんたと話がしたくてね。まあ、この低落だから思うように動けないんだ。悪いが、雪麗が零した水の後始末してくんね」
 彼女は、私を睨み溜息を吐いたかと思うと零れた水を拭いてくれた。

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