小説 | ナノ

君シリーズ.8 [ 74/145 ]

君憂う

「で、一体どうしたってのよ」
「り、はん…さん、はっ……私と、結婚……した、の…っ…後悔…してるって…」
「はぁ? 何それ。ちょっと、本人がそう言ったの?」
 グスグスと泣きながら、雪麗の言葉に佐久穂は小さく頷いた。
 雪麗は、鯉伴に対し本気で甲斐性なしの烙印を押した。
「鯉伴さん……結婚してから一度も笑ってくれなくて、触れても貰えなくて……いつか、三行半状が渡されても良い様にしてたけど……現実を突きつけられると辛いです。母様の力が欲しかっただけだったんですね」
 それを言うなら佐久穂も同じだろうと雪麗は思ったが、それを口に出すことはしなかった。
「……よし、呑もう」
「え?」
 急に呑もうと言い出した雪麗の行動についていけず、疑問符を浮かべる佐久穂に彼女は眉間に皺を刻みながら言った。
「辛気臭いのよ。こういう時は、酒を呑んで憂さ晴らしするのが一番なのよ!! あんたの為に、秘蔵酒を開けてあげるんだから今度何か奢りなさいよね」
 押入れから秘蔵酒と肴を取り出し、ドンッと佐久穂の前に置かれる。
 お酒が大の苦手な佐久穂も、この時ばかりは雪麗の気遣いに甘える形で彼女と共に秘蔵酒を飲むのだった。


 夕餉そっちのけで女同士の酒盛りが始まり、佐久穂はものの見事に酔っ払っていた。
「お猪口3杯で酔っ払うとは、なんて安上がりな女……」
「せちゅらしゃん、もっとーくらはい」
 お猪口を差し出しながらお酒を強請る佐久穂に、雪麗はハイハイと適当に流しながら注いでやる。
「んー……おいちい」
 顔を赤く染めながら、へにゃんと笑う佐久穂はあの辛気臭さは無くなっていた。
「後悔しゅるくらいにゃら結婚しにゃければよかったのにねー」
 佐久穂は、ケタケタと笑いながらお酒を煽っている。その姿が無理に笑っているようで痛々しい。
「本気でぶつかって話し合ったらどうなのさ」
「んー……無理れすよぉ。話すことなんてにゃいもん。三行半状書いてもらって実家に帰る。そにょほーが、お互い良いでしょ」
 相当根が深いのか、佐久穂は酔っ払った今でも鯉伴に対し完全に心を閉ざしている。
「せちゅらしゃん、おかありー」
 お猪口を差し出しながら酒を強請ってくる佐久穂に対し、雪麗は早々に潰して鯉伴に押し付けることを決意した。
 逃げ回っている鯉伴も悪ければ、彼と話をしようともしない佐久穂にも問題があるのだ。
 佐久穂に請われるままに酒を注いでやり、小さな徳利くらいの量を飲み干した彼女は、そのまま酔い潰れ眠りこけてしまった。
「一刻も持たなかったとは弱すぎよ。ま、こっちにしたら好都合だけどね」
 お猪口を握り締めながら寝こける佐久穂を置いて、雪麗は鯉伴を呼びに行ったのだった。

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