小説 | ナノ

act71 [ 72/199 ]


 町内の福引は案外捨てたもんじゃなかった。一泊二日とあって、結構豪華な部屋に泊まれることには驚いた。
 案内された部屋は、露天風呂が完備されていた。正規の値段は一体幾らなんだろうと青ざめたくらいだ。
「夕食は、19時から。朝食は、7時からとなっております。何か御座いましたら、備え付けの電話でお申し付け下さい」
 仲居は、そう言うとさっさと部屋を出て行った。
 荷物を置きうろうろと部屋の中を見て回っていると、背中から抱き込まれてしまい身動きが取れない。
「離せよ」
「ワシが満足したら離してやろう」
 項に唇を落とし肌をきつく吸い上げる。チクリと痛みが走り、私は顔を顰めた。
 どうしてこう、人の肌に情痕を残したがるのか理解できない。
「痕付けんな!」
 身を捩り逃れようとすると、それが気に食わなかったのか畳の上に引き倒される。
「ワシのものをどう扱おうがワシの勝手じゃ」
 無骨な指が、顎を掬う。覆い被さってきた彼の唇に、私の溜息は吐息とともに絡め取られる。
「んっ……は、ぁん…」
 口付けに気を取られていると、いつの間にか帯を解かれていた。着物って本当男にとって都合のいい構造になっていると思う。
 着物を肩に引っ掛けている状態の私に対し、ぬらりひょんは薄く笑みを浮かべている。
「身体つきが、やらしくなったな」
「はっ…ふ、ぅ…んん。どいういう…意味、だ」
 キッと睨みつけるが、彼は色白の理細やかな肌に舌を這わせ丹念に舐めている。
「ん? 言葉通りだ。男を知り身体つきが丸くなった。無意識に男を誘い込むのは、頂けないがな」
 ぽつりと色付いた尖りを口に含みアムアムと甘噛みされると甲高い嬌声が零れた。
 じらすように内腿を撫で上げられ、愛液で濡れた入り口を軽くなぞる指に私は息を詰める。
「やっ……ぃ……あふ、んんっ」
 ぬらりひょんの性急な行為に身を捩り逃れよとするも、腰を掴まれ引き戻される。
「佐久穂が、誰のもんかしっかり覚えこませんとなぁ」
 煌々とした笑みを浮かべうっとりと呟く内容は、酷く自己中心的な内容で私は身を震わせる。
 狂気か、狂喜なのかは分からない。震える身体を抑える術はなく、美しく獰猛な獣に私は魅入られるように手を伸ばした。
 それが合図となったのか、私は宣言どおり彼が満足するまで身体を貪られることとなる。
 解放されたのは日付が変わる深夜のことで、温泉旅行とは名ばかりの爛れた旅行と化し幕を閉じたのだった。

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