小説 | ナノ

act72 [ 73/199 ]


 ぬらりひょんとの爛れた伊豆旅行から戻ってきた俺は、腰痛と筋肉痛に見舞われていた。
 調子に乗ったぬらりひょんが、普段したことのない体位を試しまくったせいである。
 家まで着いて来ようとした奴を般若の形相で追い返し、ヘロヘロになりつつ帰宅した私に待ち受けていたのは、受難というなの依頼だった。
「ただいまー」
 フラフラしながら自室に戻ると、ターッと走ってきたつくも神が飛びついてきた。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
「ただいま。ほい、お土産」
 ガサガサと鞄を漁り、お土産を彼女に手渡すとニコォと満面の笑みを浮かべている。
「わぁ! 可愛いです」
 伊豆硝子で作られた簪に頬を染めて喜ぶ姿に、買って良かったと思う。
「気に入ったかい?」
「はい! 嬉しいです」
 彼女の頭を軽く撫で、机の上に放置されたパソコンを起動させる。
「ご主人様宛てに手紙が来てましたよ」
 差し出されたのは、差出人の名前のない一枚の手紙。裏を返すと、見覚えのある華押が押されており顔を顰める。
 封を開けて中の手紙を読むと、差出人は花開院竜二からだった。
「……ご主人様?」
 つくも神の声に、私はハッと我に帰り取り繕うように笑みを浮かべる。
「どうかなさったんですか?」
「ん? 嗚呼、仕事の依頼だった」
「そうですか」
「おう、そこにある饅頭食って良いぞ」
 気をそらそうと饅頭をちらつかせれば、彼女はワーイと両手を挙げ喜んでいる。つくも神の意識が饅頭に剥いているのを確認し、私は手紙を読み込む。
 羽衣狐が本格的に動き出したこと、螺旋結界が解け始めたこと。そして、私の力を借りたいとのこと。
 関わらないわけにはいかないのは重々承知していたが、リクオが羽衣狐との因縁の対決がすぐそこまで来ていることを示している。
 今の花開院では勝つことはできない。リクオは発展途上だが、今の奴良組は京妖怪を打ち破る術はないだろう。
「……ぬらりひょんに相談するか」
 遅かれ早かれ京へ行くことになるだろう。リクオの方は、ぬらりひょんの采配に任せて私はゆらのサポートに徹するか。
 私は、手紙を机の引き出しの中にしまいパソコンのメールソフトを起動させると52件の未読メールが溜まっていた。
「……これを一々読むのか」
 内容は、妖怪の目撃情報からサイトの質問と幅広い。
「うーん……質問関係は掲示板を設けて書込みして貰った方が良いよなぁ。烏天狗辺りが、回答してくれそうだし。依頼は、今まで通りメールにしてもらって……。また、こいつか」
 相変わらず会いたいメールを送ってくる元依頼者(男)に私は溜息を吐く。
 ずっと無視し続けてきたが、このまま放っておくとストーカーになりかねない気がする。
 ザッとメールに目を通していると、目を引くタイトルのメールを見つけ手を止める。
「邪魅祓い? 何だそりゃ」
 聞いたことのない妖怪の名前に首を傾げていると、
「ご主人、邪魅は他人に恨みを買ったものに取付く妖怪と言われてますよ」
 モグモグと饅頭を頬張りながらつくも神がご丁寧に解説をしてくれた。
「そうか。つか、女の子なんだから口にもの入れて喋るのはよせ」
「あい」
 コクンと頷き、懲りずにモグモグしているつくも神に私は溜息を吐く。
「メールを読む限りでは、見ているだけのようだけど依頼者は切羽詰ってるみたいだし引き受けるか」
 期末が終われば、テスト休みがある。それを利用すれば良いだろう。
「明日、あいつらに話すか」
 キーボードを叩きながら、依頼者に返信のメールを打ったのだった。

*prevhome#next
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -