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act61 [ 62/199 ]


 鴆と共に負傷者二名の手当てをしていると、数分もしない内にリクオが倒れたと彼の下僕が駆け込んできた。
「大方、心労だろう。寝かせとけ」
 私がシレッとした顔でバッサリと切り捨てると、まさかそんな事を言われるとは思わなかったのか唖然としている。
「寝かせとけって、嘔吐して倒れたんですよ!?」
 納得いかないと食って掛かる首なしに、私は牛頭丸の身体に巻いていた包帯を床に置き、ツカツカと彼の前に立ち思いっきり顔を引っ叩いた。
「どっちが、切羽詰ってんのか状況見て考えろや。鴆の力が必要なのは、奴良じゃねぇ。コイツらだ。コイツらが死ねば、あいつは自己嫌悪で潰れるだろうがっ! そんなことも分かんねぇのかよ。分かったら出て行け。邪魔だ」
 ビシッと障子を指差し出て行けと態度で示す。
「何の力も持たない人間が知った風な口をきくな!」
 私の言葉など価値もないのか、首なしに怒鳴り返される。一触即発の空気を破ったのは、他でもない鴆だった。
「止めろ首なし。そいつの言う通りだぜ。リクオは、寝不足とストレスで倒れただけだ。寝てりゃあ治る。見るまでもねぇ。それと清継はに謝れ。言いすぎだ」
 鴆の言葉に首なしは眉間に皺を刻み暫し無言になった後、私に謝罪した。
「……すまない」
 形だけの謝罪に、私は眉を顰めるも言葉には出さずにいた。
 人を睨むだけ睨んで退出した首なしに、私はハァと大きなため息を吐く。
「悪かったな、嫌な思いさせちまって」
「別にどうでも良い。つーか、あいつらの過保護がリクオをダメにしちまってんじゃねーのか?」
 私の確信を突く一言に、鴆はムムムッと唸り声を上げたっきり黙ってしまった。
「……そうかもしれんな」
 思い当たるところがあるのか、牛鬼がポツリと呟いた。その言葉の意味をリクオが知るのは、少し先のことである。
 馬頭丸と牛頭丸は、三人がかりの応急処置で何とか一命を取り留めた。
 鴆は、よっこらしょと腰を上げ部屋を出ようとした彼に声を掛ける。
「奴良のところに行くんだろう」
「嗚呼、様子を見にな」
「じゃあ、説教垂れてやってくれ。妖怪にゃあ、妖怪の理があんだろう。あの馬鹿は、何でもかんでも自分で背負い込もうとしてぶっ倒れてんだ。張り倒してでも良いから叱ってやれ」
 私の言葉に、鋭い目つきをした鴆も目を大きく見開き驚いている。
「何だよ」
「……聡いガキだとは思っていたが、人間のお前に言われるとは思わなかったぜ」
「そーかい。大体、人間も妖怪も変わりゃしないさ。ジジイから引き継いだ百鬼夜行だぜ。リクオに忠誠を誓ってねえだろう。リクオが、自分の百鬼夜行を作ることに気付かせるのは俺じゃねぇ。あんたら下僕の仕事だろうが」
「ハハッ、本当に末恐ろしいガキだよ」
 褒めてるのか貶しているのか、上機嫌な鴆に私は適当にあしらい部屋から追い出した。
「リクオは、良き友人を持ったようだな。牛頭と馬頭を助けてくれてありがとう」
 深々と頭を下げる牛鬼に、私はポリポリと頬を掻く。
「俺の方こそ、首なしに何も言わないでいてくれてサンキューな」
 私の血と能力を彼らが口にしていれば、利用されていたかもしれない。
 リクオとは対等でいたいと思うからこそ、何も言わないで居てくれたことが嬉しかった。
「明日が休みで良かった。俺が傍に居れば、多少なりと傷の治りは早くなるだろうしな」
「そうだったな」
 私は、重傷者二名を見守りながら牛鬼と他愛もない話をして夜を過ごしたのだった。

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