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act60 [ 61/199 ]


 思い通りに事が運ばないのは常で、またしても巻き込まれているのは何故だろう。
 鴆との話もそこそこに、今度こそ帰ろうかと部屋を出たら若菜に捕まり、帰る旨を伝えているところに黒羽丸にかち合い現在に至る。
 これが、トサカ丸なら適当に丸め込めたのだが相手が悪かった。
 四国妖怪の襲撃を受けている今、私はあまりうろついて欲しくないらしい。
 リクオの家に残留決定になった私は、自宅に電話を掛け泊まることをメイドに伝えた。
 夜が深まるにつれて見知らぬ妖怪が次々とやってきた。私も、流石に家の中を動き回るのは阻まれリクオの部屋でカタカタとノートパソコンを弄っていた。
「いつも思ってたんだけど、何してるの?」
「ん? 妖怪脳に来た問合せや依頼のメールのチェックだ」
 祢々切丸の手入れを終えたリクオが、ヒョコッと背中から顔を覗かせる。
 ビッシリと埋まったメールの件数に顔を顰めているなど私は知らない。
「お礼のメールとかも多いね」
「メールで相談受けることが多いからな。素人でも出来る対処法を教えるくらいで、本格的にヤバイ案件はゆらに回してる」
 ゆらの修行にもなるし金も入るので一石二鳥だ。清十字怪奇探偵団を立ち上げてから、メンバーの以外な特技に本気で会社を立ち上げようかと思ったくらいだ。
 一番以外だったのは、巻の会計能力。お金が好きと公言するだけあり、彼女に金を管理させると右に出るものは居ない。
 また、鳥居は細やかな気配りが出来るため事務を任せると自分では気付かないところまでよく見てくれている。
「ゲッ、またコイツからか……」
 一見何の変哲も無いお礼メールだが、『もう一度会ってお礼がしたい』としつこくメールを送りつけてくる困ったユーザだ。
 顔を顰めそれに返信をしようとキーボードに手を掛けた時、リクオの纏う空気が変わった。
「もう一度会ってお礼がしたいって何?」
「そのまんまの意味だろう」
 低い声音に身震いをしつつ、なんでもない風に装うが奴は強敵だった。
「そういう事を言っているんじゃないよ! これ、男だろう。いつ会ったの?」
 まるで浮気を咎める様な物言いに、私の眉間に皺が刻まれる。しかし、ここで無言を貫いたところでリクオが納得するわけもなく、私は素直に答えた。
「……GW明けに依頼が来て、最初はメールで対応していたんだ。流石にメールだけでは対応しきれなかったから、ゆらを連れて祓いに行った」
 カナの誕生日が来る前のことで、実際にゆらの能力を増幅させるために同行したのだが、依頼者(男)に気に入られてしまった。
 それから元依頼者(男)からのメールが、妖怪脳に頻繁に入るようになったのだ。
「聞いてないぞ!! 僕に何で言わないの!? 勝手に依頼受けるの禁止! 変な男引っ掛けて冗談じゃない」
 プリプリと怒るリクオに、私は顔が引きつる。いや本当、リクオといいぬらりひょんといい私を一体なんだと思っているのだ。
 私は、奴らの恋人でも配偶者でも何でもないんだぞ。言うなれば赤の他人である。
 文句を言ってやろうと口を開いた時だった。外の様子が騒がしくなり、不審に思ったリクオが外に出ると大怪我負った牛頭丸と馬頭丸の姿があった。
「……僕のせいだ」
 顔から血の気をなくすリクオの呟きに、私は状況を瞬時に悟る。彼は、牛頭丸と馬頭丸を使い敵陣に乗り込ませスパイ活動をさせていたのだろう。
 そして、敵に見つかり大怪我を負ったといったところか。
「黒羽丸、ささ美、二人を奥の部屋へ。牛鬼、布団を引くの手伝ってくれ。鴆、俺も治療を手伝う。中へ入れ」
 リクオを押し退け、彼らを中へと入れる。リクオを見ると、頭が真っ白になっているようだ。
 今は牛頭丸と馬頭丸の手当てが優先だと言い聞かせ、私は開いている部屋に彼らを通しテキパキと指示を出してその場を仕切ったのだった。

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