小説 | ナノ

act59 [ 60/199 ]


 リクオを強制的に寝かせた私は、やることも無くなったので帰ろうかと部屋を出たら鴆に出会った。
「よお。佐久穂が出てきたっつーことは、リクオは寝ているんだな」
「おう、グッスリ寝てやがる。気負い過ぎて倒れりゃ世話ねぇってのにな」
 バッサリとリクオを虚仮下ろした私に、鴆は顔を引きつらせている。
「もう、帰るのか?」
「ああ、ここに居てもしょうがねぇし」
 リクオの力になると約束はしたが、人間の私が出来ることなど高がしてれいる。
 私の行動が意外だったのか、鴆は豆鉄砲を食らったような顔をしていた。
「……何だよ」
「いや、傍についてやるもんだと思っていたが違うんだな」
「俺が、傍に居たからあの馬鹿は自分の限界を無視したんだ」
「どういう意味だ」
 薄々は感づいているのか、どういう意味だと聞きながらも彼は私から答えを待っている。
 まるで答え合わせをしようとしているかのように。
 私は、溜息を一つ吐きガリガリと頭を掻く。私の能力を知っているものは、極一握りの存在である。
 ひた隠しにするのは、私を狙う輩に自分の意思とは関係なく力を与えてしまうからだ。
 話しても良いものか、否か。暫しの沈黙の後、私は大きなため息を一つ吐いた。
「場所を変えようぜ。人の目があるところでするような話じゃねぇ」
 クイッと顎をしゃくり、リクオの部屋に彼を入れた。
「おいおい、リクオの部屋で喋って良いのかよ」
「あ? 起きるわけねぇだろう。ここ数日睡眠時間が少ない馬鹿は、完全に夢の中だ。ここで喋る分なら、他の奴は来ねぇよ。人払いしてるしな」
「用意周到だな」
 呆れた顔で評価する鴆に、私は肩を軽く竦めてみせた。
「それで、さっきの答えはどうなんだ?」
「居るだろう。何の力も無い人にも関わらず、血肉を食らえば力が増し寿命が延びる特殊な存在が」
「それが、佐久穂だと言いたいのか」
「そういう事。俺の場合、周りに影響を与える。傍にいるだけで傷の治りが早くなったり、症状が軽くなったり、妖力や霊力が格段に上がったりする」
 そこまで言うと、鴆は眉間に深い皺を刻んでいた。
「リクオが、無理出来たのは佐久穂が傍に居たからか」
「おう、疲労回復にも効果があったから多少の無理も出来たんだろう。でも、やっぱり休息を取らないと倒れる。薬のが効いているとはいえ、今こうして喋っているのに起きないってのは相当疲れてるんだろうな」
 リクオを見やると、青白い顔が見て取れる。
「ささ美が、いきなり押し掛けてきたかと思うと『清継に頼まれた。睡眠薬を寄こせ』って言って来た時は驚いたがな」
「あー……悪かったな」
「佐久穂って名前は偽名なのか?」
「違う。俺の真名だ。知っている奴は、極一握りだ。ささ美も知らねーよ」
「普通、通り名を教えるもんじゃねーのか?」
 最初から真名を教えられていた鴆は、私の行動に首を傾げている。それも、そうだろう。
 まさか、奴良組に関わることになろうとは鴆と出会った時点では思いもしなかったのだ。
「……あんたなら教えても良いかと思ったんだ。あまり人前でその名前は呼んでくれるなよ」
 我ながら苦しい言い訳ではあるが、私がそう言うと鴆は目元を和らげ鷹揚に頷いたのだった。

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