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始まりは満月の下で.2 [ 62/145 ]


「親父、ちょっと良いかい」
 鯉伴が障子越しに声を掛けてきたことに対し、ぬらりひょんは是と返した。
「どうした。改まって」
 気持ち悪いなと冗談めかしてからかえば、鯉伴は嫌そうに顔を歪めドカリと彼の前に腰を下ろした。
「この間、俺が出入りに行ってる間に鬼姫と会っただろう」
「鬼姫ぇ? 知らん」
 鯉伴が出入りに行った夜、彼とは別にシマを侵していた連中を締上げに行っていた。
 そこで会ったのは、屍の山とそこに佇む人の子。確かに、ぬらりひょんも意表を突かれ腕にかすり傷を負ったほどだ。そこそこ強い方だろう。
「知らねぇなら良いけどよぉ。妖怪に対し恨みがあるのか、手当たり次第殺しまわっているって噂だぜ。腕も相当立つらしいし、気を付けろよ」
 鯉伴は、表情を和らげ何もないなら良いと忠告を寄こした。
「恨みねぇ」
 先日の少女が鬼姫というなら、ぬらりひょんの命を狙う理由が分からない。幾ら彼女に聞いたところで、口を割るとは思えない。
「……調べるか」
 ボソッと呟いた言葉に、鯉伴が目ざとく反応を示す。
「親父、何か知ってんのかい」
 ジトッとした目で睨む鯉伴に、ぬらりひょんはニッと笑みを浮かべるだけで何も言わない。
「鬼姫のことは、ワシに任せとけ。奴さんは、ワシにご執心なんじゃ」
「おいおい親父、さっきは知らねぇっつただろうが」
「あの女が、鬼姫かどうかは知らん。ただ、えらく強い女じゃった。ワシ、殺されかけたしな」
 大方、七割は興味本位だろうと鯉伴は予測がつき溜息が漏れる。
 シマを荒されるのを指を咥えてみているわけにはいかない。相手が妖怪だったら切り伏せれば話は早いが、人となるとそうはいかない。
 しかし、同胞を殺されるのを許すわけにもいかないのも事実。鬼姫の今後の動向によっては、彼女を手にかけなければならないのだ。
「……任せるのは良いが、あまり時間はないぜ。皆気が立っているからな」
「分かっとる。そうと決まれば、三羽烏を使って聞き込みをせんとな」
 ぬらりひょんは、三羽烏を呼び佐久穂の特徴を話し彼らに身元を調べさせた。

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