小説 | ナノ

act58 [ 59/199 ]


 一見普通に振舞っているが、リクオは明らかに無理をしている。薄っすらと出来た隈に私は眉を潜める。
 責任感の強い彼は、ぬらりひょんの居ない奴良組をどうにか纏めようとしているが非協力的な彼らが素直に云うことを聞くとは思えない。
 案の定と言うべきか、リクオの精神的負担は日に日に増しているようだ。それを下僕達に悟られないように振舞っている辺り食えない奴だと改めて認識させられる。
 しかし、このまま行くと体調を崩すのは目に見えている。一度、ガス抜きをする必要がありそうだ。幸い土曜日で半ドンだから時間は沢山ある。
「奴良、この後付き合え」
「良いけど……なに?」
 リクオの問いには答えず、私はサクサクと帰り支度をしているとそれを見ていたゆらが首を傾げて話しかけてきた。
「部活はせーへんの?」
「俺と奴良はパス」
「なんで?」
「なんでも」
 納得いかないのか、変な顔をしている。巻は、ニタァと嫌な笑みを浮かべている。どうせ腐女子的妄想をしているんだろう。
「あーやーしー。二人でどっか行くんでしょう!」
 否定したところで、巻が暴走するのは過去の経験から身に染みている。
「ブー、外れ。奴良ん家に行くんだよ」
「何で奴良の家に行くの?」
 目を輝かせ興味津々な巻に、鳥居やゆらも傍で聞き耳を立てている。
「こいつの義理の兄さんが腕利きの医者なんだ。薬を処方して貰ったから取りに行くんだよ」
「えっ!?」
「ええー! 何それ、全然面白くないんですけどぉ。もっと色気のある出来事はないの」
 私の言葉に驚くリクオは完全にスルーされている。つまらないとダメ出しをする巻を軽く睨む。
「お前なぁ、俺とコイツでリアルBL妄想すんの止めろ」
「だって、萌えるんだもん。清継君ならいける。もう、ナマモノ万歳って感じ」
 本人を前にして堂々と言い切る彼女は、根っからの腐った女子だと痛感した。
 SHRが終わったのか、カナや島が教室に入ってくる姿が見えこれ以上ここに居ては時間が無くなりそうだと思った私はリクオの腕を掴み教室を後にした。


 リクオを拉致した私は、彼の家に押し掛けていた。若菜の手料理を食べた後、宿題を理由に彼の自室に篭る。
 毛女郎が差し入れで持ってきてくれたお菓子とお茶を有難く頂きつつ、宿題に取り掛かる。
 三十分程度で終わり、来た当初の目的を果たすかと口を開こうとしたら、彼の方が早かった。
「……何で急に僕の家に行くって言い出したの。今、どういう状況下か分かってるのにどうして?」
 少し怒った感じがする低い声に私は、間延びした返事を一つした後、目を細めて云った。
「んー、分かってる。だから、ここに居るんだ」
「は?」
「昼も夜も起きて活動してるお前のために、強制的に睡眠を取らせようと思ってな。無味無臭の即効性。最低でも半日は目が覚めない優れものだ。流石、鴆様々だな」
 私は、ニヤッと悪どい笑みを浮かべリクオを見やる。急速に襲ってきた眠気に負けた彼は、バタッと畳みの上に倒れ深い眠りについたようだ。
 押入れから布団を取り出し引くと、そこに彼を寝かせた。彼の無茶振りを心配していたのは、私だけではなかったようで鴆に睡眠薬の件を持ちかけたとき無言で作ってくれたのが良い例である。
 この度の四国妖怪襲撃は、奴良組を建て直しいずれ魑魅魍魎の主になる彼の一番最初の壁になるだろう。
 ぬらりひょんは、リクオなら奴良組を率いることができると確信し浮世絵町を離れた。リクオは、無意識ではあるがそれに応えようとしている。
「本当、下僕泣かせな大将だよ」
 私は、リクオの髪を撫でながら一時の休息になればと彼の眠りを見守ることにしたのだった。

*prevhome#next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -