小説 | ナノ

act57 [ 58/199 ]


 今日は厄日かと思えるくらいついてない。生徒総会選挙演説が終わり、投票結果も出た。結果は、ぶっ千切りで当選したまでは良かったのだがあの演出に納得しない者が二人いた。
 言わずもがなカナとゆらである。ニッコリと嫌な笑みを浮かべて待ち構える彼女らを見た瞬間、正直逃亡したくなった。
「どういう事か、きっちり説明してくれん?」
「何であの人がいるのかなぁ」
 ゴゴゴッと暗雲を背負いドス黒い笑みを浮かべてにじり寄る彼女らに、私はバッと顔を反らす。滅茶苦茶怖いんですけど……。
 助けを求めようとリクオの姿を探すが、奴は居なかった。肝心な時に役に立たない奴め!
「特撮っぽくて面白かっただろう」
 ヘラッと笑って誤魔化そうとしたら、火に油を注ぐ形となった。
「この阿呆んだらぁあああー! 何が特撮やねん!! 危険なことに首を突っ込みやがって、そんなに死にたいんか。ああーん?」
 地を這うよう低い声に私はブルリと身体を振るわせる。
「一体どういうことか、説明してくれるよね?」
 可愛いと称される上目遣い+首傾げポーズをするカナだが、私にとっては恐怖以外何ものでもない。
 事の顛末を吐かされる羽目になろうとは、誰が思うだろうか。
「―――ほぉ、四国妖怪から人を守るために妖怪の主と結託し一芝居打ったと」
「何でそんな危ないことするの! そもそも、四国妖怪に踏み込まれるなんて落ち目も良いところじゃない。また、とばっちり食らってお人好し過ぎるわ」
「ホンマ、家長さんの言うとおりやで。妖怪の良い様に使われよってからに……本気で潰したろうか」
 フフフッと恐ろしいことを宣うゆらに、私はブルリと身震いした。本気に満ちた目が、怖すぎる。
「寧ろ滅してくれた方が、世のため人のため清継君のためになるわ。応援してるね、ゆらちゃん」
「初めて意見があった気がするわ、家長さん」
 ガシッと手を取り合って友情(?)を確認する二人に挟まれた私は、早く戻って来いとリクオを心の中で呼んでいた。


 犬神も一件も終わり、リクオが四国妖怪に仕掛けていることなど露知らず、私は苔姫のところへ足を運んでいた。
 着物をオシャカにしたのと、非常事態とはいえ苔姫の名を騙ったこと。呪いのせいで生死を彷徨い、休むまもなく生徒総会総選挙演説と続いたわけで時間が取れなかった。
 まずは謝らねばと思い彼女の好きな酒とつまみを見繕いこうして持参したわけだが、いつも飛んでくる盃とか怒声がないので拍子抜けだ。
「こんにちは―――あのぉ……苔姫様?」
 シンッと静まった境内に顔を覗かせると、ションボリと肩を落とし蹲る苔姫の姿を見つけ首を傾げる。
「居たなら、返事して下さい。この間は、済みませんでした。折角お借りした着物もダメにしてしまい、非常事態とはいえ名前まで騙ってしまって……」
 私の言葉を遮るように、彼女はドンッと体当たりしてきて馬乗りになる。
「佐久穂のバカバカバカ大馬鹿者っ! 着物なんぞどうでも良いわ!! 何故、あんな馬鹿な真似をした。ワラワが、どれだけ心配したと思うておる」
 ボロボロと大粒の真珠を零しながら泣き続ける苔姫に、私は困った笑みを浮かべ彼女の頭を軽く撫でた。
「仕方ないじゃないですか。守りたかったんですから」
「っ! ……ワラワは、人の子に守ってもらうほど弱くは無い」
 顔を真っ赤にして怒る苔姫に、私は彼女の言葉を肯定する。
「そうかもしれません。でも、大切だから体は頭で考えるよりも先に動いてしまった。苔姫が無事で良かった」
 偽りない私の言葉に彼女は身体を振るわせたかと思うと、
「佐久穂は、ずるい。ワラワだって、佐久穂を大切に思っておる。ワラワを心配ように、ワラワも佐久穂の無事を心配する。命に関わるような無茶はしてくれるな、一生のお願いじゃ」
 声を震わし泣きそうになりながらも意見を述べる。氏神として400年近く生きていたとしても、大切なものが失われる悲しみは慣れないようだ。
「大切なものが危険に晒されたら、同じようなことをすると思います」
「佐久穂っ!」
「誰かを庇って死ぬようなことはしない。自分の命も守ってみせる。――それでは、ダメですか?」
 私の譲歩に苔姫は渋い顔を見せたが、何を言っても無駄と悟った彼女は大きなため息と共に告げた。
「その約束違えたときは、ワラワがお主の御魂を扱使ってやるからな!」
 本気か冗談か(恐らく七割方本気)分からない彼女の言葉に、私は意地でも死ねないと心底思ったのだった。

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