小説 | ナノ

act43 [ 44/199 ]


 カナを無事救出した私は、ゆら達を家に送り届けた後、のんびりと帰路を歩いていたら拉致られた。夜のリクオに。
「……何でお前がここにいる」
 半眼になって彼を睨みつけると、リクオは目をスッと細めて言った。
「後で迎えに行くと言ったはずだぜ」
 聞いていないと白を切ったところで、唯我独尊を地で行く夜の彼には何の効果もない。
「どこへ連れてくつもりだ」
「タダ働きさせられたんだ。飯に付き合え」
「シマを取り仕切るのも若頭の仕事じゃねーのかよ」
「知らねぇ」
 プイッと顔を反らされ不貞腐れているリクオに、私はどこのガキだと心の中で毒づいた。
 折角、カナと二人っきりにしてやったのに何が気に食わないんだ。そう望んだのは、リクオだろう。
「……家に連絡する。お前んちに泊めろよな」
 どうせ帰るのが遅くなるなら、最初からリクオの家に泊まる口実を作っておけば親も心配しないし文句も言われないだろう。
 そう思っての言葉だったのだが、顔を赤くして唖然としているリクオと目がかち合ってまた反らされた。
 常々思っていたが、人の顔を見て反らすとは失礼な奴だな。ムッとする私を他所に、リクオは無言で私を抱えたまま一番街の化け猫横丁へ来ていた。
「帰る」
 クルッと向きを変えて逃げ出そうとする私の腰を抱え、中へと入っていく。
「おりょおりょ、ジジイんとこの孫じゃねーか。もうこんなところに通う年になったのかぇ。妖怪ならフリーパスだよ」
 リクオは、私を小脇に抱えたまま無言で蛇骨婆の前を素通りする。
「ん? 今、誰か連れてなかったかい?」
 そう声を掛けられるも、その声さえ無視するリクオの神経はどこまでも図太かった。
 ぬらりひょんの能力を無駄に使うのは、ジジイそっくりである。
 一月半前に訪れた時の記憶が蘇る。あの時は、ぬらりひょんだったが今回は孫のリクオだ。
 私を妖怪の掃き溜めに連れて行く必要はないだろう。
 ブツブツと文句を零していたら、あっと言う間に『化猫屋』の看板が目に入った。
「ここに入るとか言わないよな?」
「入るに決まってんだろう。行くぞ佐久穂」
「いーやーだーぁああ」
「うっせー。大人しくしろ」
 ジタバタと暴れる私の襟首を掴みズルズルと引っ張られる。夜のリクオは、本当人に容赦がない。そんなことばかりしているとカナに嫌われるぞ。
「いらっしゃいませ!」
「妖怪和風隠食事処化猫屋へようこそ!!」
 威勢の良い掛け声と共に、ワッと猫耳を生やした妖が集まってくる。
「荷物お持ちしますねー」
 ワッと群がる猫耳集団に私は唖然とする。この間は、営業前+ぬらりひょん同伴という事もあり触れてくることはなかったのだが、今日はベタベタと触れてくる。
「こいつにあんま触るな」
 リクオに肩を抱かれ、先導する猫男の後ろをついて行く。本音は、物凄く帰りたいのだが周りはそれを許してくれそうになさそうだ。
 椿の間ではなく、二階の席に通された。それでも、かなり良い席なのは何となく分かる。
 ドンドンと運ばれる料理に、私はお財布の中身を思わず確かめた。ぬらりひょんの時は、体で支払ったようなものだから同じ轍は踏みたくない。
 樋口一葉が一枚入っていた。取敢えず、足りなければ別の日に渡せば良いだろう。寧ろ、無理矢理連れてきたのだ。それくらい許されるはず!
「ひゃひゃっ、若も隅に置けませんなぁ。こんな可愛い愛人を連れて来るなんて」
「こいつは、愛人なんかじゃねーよ」
 一応否定はしているが、ニヤニヤと笑う顔はムカつくものがある。愛人発言した猫男を睨みつけると、益々彼は饒舌になった。
「どこで出会ったんです、この別嬪さんと」
「ささ、お連れの彼女さんも名物マタタビカクテルをどうぞ」
 別嬪だの彼女だの愛人だの……言いたい放題の状況に、私の堪忍袋の緒はブチッと音を立てて切れた。
「俺は男だ! 誰が愛人だ。てめぇら、目が腐ってんじゃねーのか?」
 ギラッと愛人&彼女発言した猫男達を睨みつけると、ヒィィイッとか細い悲鳴を上げている。
「その辺にしてやれ。悪いな、こいつ性別を示唆するワードはNGなんだよ」
「わ、若ぁぁ…もっと早くに言って下さいよぉ」
 泣き言を零す猫男達に、リクオは悪いと言いながらも悪びれた様子もない。それを見た猫男達は、リクオはわざとやっているのだと理解し溜息を吐いたのだった。

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