小説 | ナノ

act44 [ 45/199 ]


「ねえ、名前なんて言うの?」
「……」
「年はぁ?」
「……」
 無視を貫いていると、猫娘は気分を害したのかムッとした顔をしている。
「若ぁ、こいつ何なのぉ? 話しかけても喋らないし、ムカつく」
「聞かれたくないことだから喋らないだけだ」
「じゃあ、何の妖怪?」
「何だと思う? 当ててみろよ」
 逆に問い返してやると、猫娘は目をパチクリさせたかと思うと考え込んでしまった。
「変わった方ですね」
 ニコニコと笑う猫男から料理が盛られた皿を受け取り、パクパクと口に運ぶ。一月半前と変わらず、料理は美味かった。
 料理に心を奪われていると、いつの間にかリクオが隣に座っており酒を手酌で飲んでいる。
「おい、カバン良いのか? 漁られてんぞ」
「ん? ああーっ! ちょっ、お前ら勝手にカバンに触るな」
 猫娘達にガサゴソとカバンを開けられ中を物色されていた。
「ああ、カッワイー! どこで売ってたの?」
 人形無線機を弄くり回している彼女達から、それを取り上げるとブーイングが飛んできた。
「触らせてくれても良いじゃん」
「ダメだ! これは無線機になってんだよ。触るな」
「ケチ」
「うるせーっ!」
 一喝して人形をポケットに突っ込むと、リクオに奪われてしまった。
「こんなの持ってたか?」
「作ったんだよ。メンバー全員の分用意してある」
 暗にリクオの分もあるぞと言えば、彼はニヤッと人の悪い笑みを浮かべた。
「へぇ……」
 マジマジと人形を見ているリクオに、私は嫌な予感がした。
「俺は、コイツで良い」
「は? ふざけんな。俺のをパチるな」
「俺のを持てばいい話だろう」
 懐にさっさとしまわれてしまっては、取り返すことも出来ない。
 四次元ポケット並みの懐が、今更ながらに恨めしく思う。
 リクオ人形の無線機を持ったら、周りにとやかく言われそうだ。
 そんな事をつらつらと考えていたら、見たことある顔をした猫男が飛び込んできた。
「若! 来てくれたんですかい」
 ピコピコと猫耳を動かしている姿は、とっても愛らしいのだが二度と会いたくなかった。
「おう、良太猫。上手くやってるみたいだな」
「任せて下さい! 旧鼠が居なけりゃきちんと人と妖怪分けられやすから。うちの組と言えば百鬼花札。是非、お手合わせ願いたいもんですね」
「今日は止めとくよ」
 ニコニコ顔の良太猫が、私の方に視線を向けビシッと固まった。うん、分かるがスルーしてくれ。心の中で念を送るが、相手に通じるわけもなく絶叫された。
「佐久穂様じゃないっすか! 今日は、若とご一緒で?」
 リクオの纏う空気が重くなった。凍てつくような寒々しい雰囲気を発する彼に、良太猫も敏感にそれを感じたのか仕事を理由にそそくさと逃げた。
 逃げるなら、最初から私の話題を出すんじゃない! 恨めしく良太猫の背中を睨みつけていると、リクオの良い笑顔(真っ黒)が目の前にあって驚いた。
「今日は、ってどういうことだ?」
「さあ、何のことやら……」
「何で良太猫が佐久穂の名前を知ってる」
「旧鼠の時じゃねーの?」
「あの時はまだ知らなかった。誤魔化すな」
 何だこれは。あれか、浮気をした夫(もしくは彼氏)に詰め寄る女のようだ。いやいや、それは無いだろう。
「言え。じゃねーと……」
 その後無言になるのは止めてくれ。何されるのか分かったもんじゃない。
「……あんたのジジイが、ここで飯を奢ってくれたんだ」
「あの糞ジジイ……」
 その見返りに貞操を奪われたことは伏せておく。知られた日には、私のプライドがズタズタだ。
 ドスの利いた低い声でぬらりひょんを糞ジジイ呼ばわりするリクオに、私は溜息を吐く。何だって、私が文句を言われなければならないのか。
「佐久穂、帰るぞ」
 食事もこれからって言うときに、リクオに腕を引っ張られ立たされる。
「ちょっ、痛い」
「勘定は、奴良組に付けておいてくれ」
「へ、へい」
 猫娘からカバンを取り上げズリズリと外へ引きずられる。私の言い分など聞く耳持たずに、無言で化け猫横丁を出た。時計も夜の十時を指している。
「飯に釣られてホイホイ着いて行くな」
「拉致られたんだよ! お前と一緒だっつーの」
「俺は良いんだよ!」
「全然良くないわーっ!」
 人の意思を丸っと無視するのは、ぬらりひょんの教育の賜物か? 思わずそう思いたくなった。
 リクオの発言に米神を押さえていると、ギューッと抱きしめられた。
「……何だよ」
「余所見してると、食われるぞと忠告したはずだが。全然分かってなかったんだな。身を持って体感した方が危機感が芽生えるか」
 妖艶な笑みを浮かべ物騒なことを宣うリクオに、私は冗談じゃないと首を横に振る。
 ジジイだけでなく孫のリクオにまで手を出されるなんて、それこそ人としてどうなんだ?
「冗談は止めろ」
「冗談で済ませてやるほど俺は優しくないよ」
 私の文句は、リクオの唇で掻き消される。キスされている現実に、私は現実逃避したくなった。

*prevhome#next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -