小説 | ナノ
act42 [ 43/199 ]
「奴良っ!!」
女子トイレから出てきたリクオを捕まえた私は、カナを見なかったかと問い掛ける。
「カナちゃん? 結構前に帰った……」
そう首を傾げる彼に、私は違うと言葉を遮る。
「あいつは、雲外鏡に襲われている。お前、どこのトイレを掃除した?」
「カナちゃんが!? ここの2階と3階は済んでるけど」
「じゃあ、1階か」
ゆらが担当しているが、恐らく彼女では見つけることは出来ないだろう。
リクオの腕を放し、私は1階の男子トイレへ走る。
「待って! 僕も行く」
「当たり前だ。あいつを助けられるのは、お前しかいねーんだから」
悔しいが、鏡の世界に閉じこもられては手出しが出来ない。ゆらの技量では、尚更である。
妖怪には妖怪を宛がうしか、カナを救う手立ては無い。
トイレ付近でリーンッと涼やかな音が鳴り響いている。カナは、私の言葉を守っているようだ。
「奴良、ここに家長がいる」
「どうして分かるの?」
「その質問は後だ。家長を助けるぞ」
トイレに飛び込むと、何もない。妖怪の気配はするのに。私は、一枚一枚鏡を見ていくとカナが泣きそうな顔で鈴を鳴らしていた。
「家長っ!」
『清継君っ! リクオ君も! 助けてー』
鏡の中に吸い込まれていたか。鏡に手を掛けた瞬間、カナの姿が消え何の変哲も無い鏡へと変わっていた。向こう側から鏡を壊したか。
「奴良、お前ならあっちに行けるだろう。家長を助けてくれ」
「言われなくても助けるさ」
ざわりと空気が震える。リクオの姿がぶれたかと思うと、夜の姿へと変化していた。
鏡に手をつきゆっくりと体を入り込ませている。恐らく、雲外鏡の世界に自分を繋げているのだろう。後は、彼に任せるしかない。
私は、祈るような気持ちでカナの安否を願った。
あっさりと片がついたのか、カナを抱えて出てきたリクオの姿を見てホッと息を吐く。
「家長、無事で良かった」
思わずギュッと彼女の体を抱きしめたら、リクオにベリッと剥がされた。
「うおっ!?」
「何抱きついてんだ」
物凄く不機嫌か顔をしているリクオに、私は首を捻る。そして、思い当たることにポンッと手を叩いた。
一人前に嫉妬しているリクオに、私はハハハッと乾いた笑みが零れた。いや、うん……私今物凄く空気読めてなかった?
「悪い。無事だと思ったら、つい。家長も悪かったな」
「全然悪くないから! 助けてくれてありがとう」
「お、おう…なら良いんだが」
勢い良くカナに迫られ、私は思わず仰け反る。実際に助けたのは、リクオなのだが黙っておこう。
ブルブルと人形が振るえたかと思うと、ゆらの声が聞こえてきた。
『清継君、家長さん探しとるけど全然見つからへんで』
「もう見っけた。妖怪の主が助けてくれたよ」
『ホンマか!? 今どこにおるん?』
滅したるなどと物騒なことを言い始めたゆらに、私は米神を押さえる。うーん、借りを作るのがそんなに嫌なのか。
「場所言ったら、お前滅そうとするだろうが。家長、立てるか?」
「う、うん……あっ!」
ドテッとこけるカナの足は、震えていた。まあ、恐怖体験をしたばかりなのだ怖がっても仕方が無いだろう。
「悪いが、こいつを家まで送ってやってくれねーか?」
私の頼みにリクオは、カナを一瞥した後小さく頷いた。
そして、彼女を抱きかかえて行くもんだと思っていたら俵担ぎしている。おいおい、女の子を俵担ぎしたらダメだろう。
「待てこら。女の子を俵担ぎすんじゃねぇよ」
半眼になってリクオを睨めば、物凄く嫌そうな顔をされた。
「送ってやるんだから文句言うな」
「言うわ阿呆! 大体、その担ぎ方されっと頭に血が上るんだよ!! 家長が苦しむだろう」
「……お前は良いのか?」
良いも悪いもないだろうに何を言ってんだこいつは。
「私、清継君と帰る。送って貰わなくても良いよ」
「阿呆、足がガクガクじゃねーか。送って貰え。俺じゃあ、お前背負って家まで送り届ける自信はないぞ」
俺より小柄で軽いとはいえ、あの道のりを背負うのはキツイ。
「歩いて帰るもん」
「無理だろ。おい、アンタさっさとコイツ連れてけ」
ヒラヒラと手で追い払おうとすると、カナの喚く声が聞こえたが両手で耳を塞ぎやり過ごす。
「後で迎えに行く」
去り際にボソッと落とされた言葉に顔を上げると、窓に足をかけ電柱を足場にヒョイヒョイと飛んでいく姿が見えた。
言葉の意味を図りかねた私は、眉を寄せムムッと悩んでいるとゆらの襲撃に意識は遮断されたのだった。
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