小説 | ナノ

act24 [ 25/199 ]


 思考がパッタリと止まっているリクオを放置して帰るわけにもいかず私は少し考えた後、携帯を取出し彼の自宅へと電話を掛けた。
 数コール後に出たのはリクオの母で、優等生さながらの挨拶をしつつ彼が私の家に泊まる旨を伝える。
『随分急なのね。お家の人に迷惑じゃないかしら?』
「大丈夫です。うち、親が仕事で帰ってこない時も多いので。済みません。急に無理を言ってしまって」
『いえいえ、清継君なら安心してうちのリクオを任せられるわ。よろしくね』
「はい」
 安心して任されたくはないと毒づきながらも、優等生の面の皮を被った私は良い子のお返事を返していた。
 急なお泊りの許可をもぎ取った私は、リクオに声を掛ける。
「奴良」
 ビクッと肩を震わし怯えるような目で見る彼に、私はハァと大きなため息が出た。
「取って食いやしねーよ。お前、俺ん家に泊まれ。で、話をしよう」
「清継君……」
「俺は、お前が何だって構いやしねーよ」
 リクオの手を掴み家に帰るまで繋いだままの状態で歩いた。
 いい歳した男二人が仲良く手を繋いで歩く姿はちょっと異様だがこの際目を瞑ろう。
 多分、あの場で彼に触れなければもっと心を閉ざしていたと思う。
 メイドに急遽人を泊める事と、食事の用意をして欲しい事を伝えると私はリクオを自室に招いた。
「勝手して悪いな」
 リクオをソファーに座らせ私も彼の前に座る。
「……清継君は、どこまで知ってるの?」
 意を決したように顔を上げ私を見るリクオに、静かな声で答えた。
「奴良が考えていることは凡そ知っていると思う。答え合わせしようか?」
 彼は、少し目を彷徨わせた後コクリと頷いた。
「そうだな……まず、お前がぬらりひょんの血を引いていること。あの家には、多くの妖怪が住んでいること。そして、及川と倉田は妖怪でお前の護衛をしていること」
「どうして分かったの?」
「ん? 何て言えば良いかな。んー……俺の体質が関係して分かるんだわ。感知能力は高い上に、近年滅多に見られない見鬼と苔姫にお墨付きを貰ったな。ゆらが言った通り、俺は妖怪にとっては極上の餌。血を啜るだけで寿命が延びたり力が増したりするらしい。それは妖怪に限らなかったりするんだな、これが。ゆらのような陰陽師や神様の力を増幅させることも出来る。成長するにつれてその力は増している。苔姫に髪紐を貰うのは、人・妖怪・神から身を守るためだ。俺が女だったら、犯されて孕まされてただろうな」
 自分の境遇を振り返ってシレッと告げると、リクオは絶句している。うーん、彼には少々刺激が強すぎたか。
 でも、嘘は言ってない。私の力を本当に欲しいと思う輩は、殺さず生かし飼うだろう。
「清継君は、怖くないの?」
「それは、お前をか? それとも俺を狙う妖怪か?」
「僕だよ」
「怖くないな。言ったはずだ。お前が何だって構いやしないと。妖怪と人間両方合わせて奴良リクオだろう。お前ん家のゴタゴタに巻き込まれるのは勘弁してほしいけどな」
 昼夜ひっくるめて彼は奴良リクオなのだ。根底が人を思いやる気持ちがある彼を怖いと思えるわけないだろう。
 お人好し過ぎてこっちがヤキモキする時があるくらいなのだ。そう思わせる彼が凄いのだろうが、口に出さないでおく。
「知ってたのに、何で言わなかったの?」
 リクオの言葉に、私は自然と眉を潜める。何だ、その最低な人間像は。
「知られたくない秘密を暴いて騒ぎ立てるような腐った性格はしてないぞ。誰にも言えない秘密の一つや二つある。もちろん、俺も持ってる」
「清継君にもあるんだ……」
 クリッとした目を大きく見開き驚くリクオに、私は心外だと膨れてみせる。
「ご、ごめんね。何か、そういうのと無縁に見えたから」
「そりゃ、俺が能天気だと言いたいのか?」
 半眼で睨むと彼は、そうじゃないと焦っている。これ以上リクオを弄るのは可哀想なので止めておく。
「苔姫が言ってた事は気にするな。誰かに言われて家督を継ぐ気でいるなら止めちまえ。そんな気持ちじゃ誰も付いてこねーよ。まだ時間は(僅かだが)ある。自分の中で考えて、それから答えを出しゃいい話だ。な?」
 ワシャワシャとリクオの髪をかき乱し笑うと、彼もぎこちなくだが笑ってくれた。
「腹減ったなー。飯でも食おうぜ」
「うん。……清継君、ありがとう」
「おう、どう致しまして」
 私はリクオを伴いリビングへと案内した。自分の秘密を隠したまま、彼の秘密を知っていることに罪悪感は感じるものの何事もなかったかのように振舞った。

*prevhome#next
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -