小説 | ナノ

act23 [ 24/199 ]


 氷麗から貰った(多分)鴆の薬は、驚くほど良く効いた。二〜三日はフラフラするのを覚悟していただけあり、ちょっと嬉しかった。
 お礼に用意したお菓子を手渡すと、またしても滂沱された。なんでだ! カナやゆらだけでなく、リクオの視線が痛い。うぅ…心が痛いよ。
 氷麗にハンカチを押し当て、私は用は済んだと鞄を肩にかける。
「悪いが、俺は今日部活に顔出さねーから」
「また、危ないことするつもりか!」
 どうしてそっちに行くのだ。激しく誤解している彼女に、私は手を振り違うと答えた。
「違うっつーの。神社に行くんだよ。髪紐失くしたから、代わりのやつ貰いにな」
「私も行く!」
「来るな」
 カナの主張をバッサリと一刀両断する。苔姫が見えない彼女が付いて来たら、私一人で喋っている光景を目の当たりにするだろう。
 もっとも、怒声(私にしか聞こえない)と共に物が飛んでくるのだ。怖がりのカナには恐怖だろう。
「何でよ!」
「単に神社で参拝するだけじゃあねーんだよ。参拝したけりゃ別の日に勝手に一人で行け」
「……酷い」
 傷ついたような顔をするカナに、私はフウッとため息を吐く。悪く思うな。これもカナを守るためなのだ。
 女連れで行こうものなら、苔姫の怒りを煽るだけだ。火にガソリンを投下するようなものである。
「しゃーないなぁ。うちが一緒に行ったるわ」
「全然しゃーなくないし。つか、何でお前が一緒に来るんだよ。しかも上から目線」
「あんた一人やと危ないやろ」
 暗に無能と宣言するゆらに、私は人の話を聞いてなかったのかと心の中で突っ込みを入れる。
「お前も来るな。つーか、女連れてったら氏神の逆鱗に触れる。どうしても誰か連れてけってんなら、島お前来い」
 名指しで指名すると、島はパァッと嬉しそうな顔をして激しく頭を縦に振っている。
「も、もちろんすっ! ガッテンお供します!!」
「何で島君は良くて女の子はダメなのよ!」
「氏神が女で、島が一番無縁だから」
 旧鼠の一件で関係があると倉田もとい青田坊や元凶であるリクオを連れて行ったら、それこそ雷が落ちるだけでは済まなくなる。
「清継君の女っ誑しーっ!!」
 絶叫して走り去るのは止めて欲しい。女っ誑しという不名誉な称号を貰った私は、物凄く不機嫌な顔でゆらの去った場所を睨みつけた。


 頼りない護衛を伴い苔姫のいる神社へと足を運ぶ。流石に、苔姫と対面させるわけにはいかないので神社の入り口で島を帰した。
 物凄ーく悲しそうな顔をされた気がするが、気にしないことにする。
「苔姫様、佐久穂です。髪紐失くしたんで下さい」
 苔姫が暮らす本殿の扉を開くと予想通り怒声と盃が飛んできた。
「己という奴はぁあああ! この大戯けが! あれほど、自分を大切にせいと言うたではないかっ」
 顔面に迫った盃をヒョイッと避けると、後ろに居た人間の顔にクリーンヒットした。
 ギャッという悲鳴と共にガンッといい音を立ててカランカランと地面に転がり落ちる。
 恐る恐る振り向くと、顔を押さえ蹲るリクオの姿があった。何で彼がここに居るんだ?
「……お前、何してんだよ」
「あ、うん……心配でつい来ちゃった」
 額に盃の痕がクッキリと残ったままヘラッと笑うリクオに、私は呆れた顔で彼を見る。
「ほぉ…元凶と一緒に来るとはのぉ。いい度胸じゃ、わらわが成敗してくれようぞ」
 ゴゴゴッと暗雲を背負った苔姫が仁王立ちでリクオを睨みつけている。
 やっぱりバレてたか。こうなる事が予測できたから来て欲しくなかったのに……。
「氏神が、人を成敗したらいけませんって」
「そなたは、黙っておれ! こやつが、シマを荒らす阿呆共をキッチリ取り仕切っておったら危険な目に遭わずに済んだのじゃ」
 怒りやるせないといった感じの苔姫に、首にザックリと深い傷をこさえたなんて知れたらリクオは滅されるな。
「それは違いますよ。私は、私の友人を助けるために体を張った。彼は、それを助けてくれた。もし、あの場所に彼が居なければ私は死んでたでしょう」
「……清継君」
 旧鼠の一件は、苔姫からはリクオの不甲斐なさのせいでと見えるのだろう。リクオを庇うわけじゃないが、事実は事実だ。
 苔姫は大きなため息を吐いた後、私とリクオに中へ入るように顎でしゃくった。
「新しい髪紐であったな。そこで待っておれ」
 彼女は、ゴソゴソと葛籠の中を探し髪紐を掴んだ手を私の前に差し出した。手の上に置かれた髪紐は、以前にも増して可愛らしさがグレードアップしている。
「……俺が男だってこと分かってますか?」
 胡乱気に苔姫を見下ろすが、彼女はそれをフンッと鼻で笑い飛ばした。
「わらわは、言ったはずだぞ。次に髪紐を壊した際は金と赤の豪華な玉つきにするとな」
「壊したんじゃなく、失くしたんです」
「尚悪いわっ!! 懲りぬようなら、神在月に巫女の格好をして奉納舞をして貰うぞ」
 冗談じゃない。何が悲しくて糞寒い巫女さんの格好で舞を舞わなきゃならないんだ。そもそも、舞なんて舞えないし私。
 顔を青くする私と対照的に苔姫は、名案だと楽しそうだ。
「リクオ、おぬしが家督を継ぐも継がぬもわらわには関係ない。じゃが、これに何かあったら…太陽は二度と拝めないと思え」
 荘厳な笑みと共に頂いた言葉は、忠告と云うなの脅しだった。チラッとリクオを見ると、彼は理解が出来ないのか真っ白になっている。ご愁傷様。
 自ら取った行動が、自分の秘密の暴露に繋がろうとは思いもよらなかっただろう。

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