小説 | ナノ

act22 [ 23/199 ]


 精神疲労及び極度の貧血で私は、学校を休んだ。首の傷は、幸い髪で隠れたため追求は免れなかったが、青白い顔を見たメイドが学校に行くのを止めたくらいだ。相当酷かったに違いない。
 ベッドから起き上がるのも面倒で、私は一日中寝っぱなしの状態だった。普通背中が痛くなるのだが、それすらも感じる余裕がない。
 昼も回り、漸く体も慣れてきた。まだ頭がぼんやりとするが、昨日に比べれば大分マシである。
 まるで生理で苦しむ月ものの時のようだ。貧血に加え鈍痛と吐き気が加わるアレに比べれば何倍もマシである。
「……増血剤飲むしかないか」
 そう簡単に輸血して貰えるわけもないので、増血剤を処方して貰うのが一番手っ取り早く回復できるだろう。
 増血剤を飲んだ後、何故か便秘になっていた気がする。あれは簡便してほしい。
 ハァとため息を吐きベッドでゴロゴロしていると、ガチャッと自室のドアが開いた。
 何だ? と視線をドアに向けると、滂沱した氷麗が立っていた。おいおい、リクオの看病してるんじゃなかったのかお前は。
「……何泣いてんだ」
「清継君、体は無事ですか? やっぱりあの後、心配で心配で…うわーんっ!!」
 おいおい、自分で妖怪だって匂わせたらダメだろう。
「ただの貧血だ。心配すんな」
 ポンポンと氷麗の頭を撫でると、涙と鼻水でグシャグシャになった顔を上げる。うわぉ、壮絶だな。島が見たら、百年の恋も冷めそうだ。
「顔グシャグシャじゃねーか」
 グシグシとパジャマの袖で氷麗の顔を拭いてやる。うるりと又も目が潤んでいる氷麗に、私は焦って話題を変える。
「そう云えば、奴良たちは一緒じゃねーのか?」
「置いてきました」
 キッパリと言い切る氷麗に、私は言われた意味が理解できず首を傾げる。
「置いて来たって、あいつらもここに来る予定なのか?」
「はい、私は一足先に来ました! 渡したい物もあったので」
 そう言うと、氷麗はゴソゴソと鞄の中を漁っている。取出したのは、鳥のマークが書かれた薬袋だ。
「これは?」
「お薬です! 貧血に利きます」
 妖怪用ではないのか? とは思うものの、小さい頃からリクオも薬鴆堂で処方されたものを服用しているはずだ。なら死ぬ心配はないだろう。
「サンキューな。それ、飯食ってなくても飲めるか?」
「飲めますけど、ご飯食べてないんですか?」
「うっ……まあ」
 ご飯よりも惰眠を貪ることに集中していたせいか、朝食だけでなく昼食も取っていない。
「ダメですよ! ご飯は食べないと。血肉になりません。私が、作ってきます」
 スクッと立ち上がり、『お台所借りますからね』と言いたいことを言って部屋を出て行った氷麗に私は唖然とする。
 氷麗のご飯は期待できるが、清十字怪奇探偵団のメンバーがこっちに向かっているのなら面倒なことになりかねない。
「出来れば鉢合わせしませんように……」
 祈りにも近い願望は、この後儚くも崩れ去るのだった。


 氷麗が料理を作りに行ったのと入れ替わるように、清十字怪奇探偵団のメンバーがやってきた。今日は、本当に千客万来だ。
「清継君、具合どう?」
「おう、今朝に比べりゃマシだ。家長、無事帰れたんだな」
「うん、清継君が守ってくれなきゃ今頃どうなってたか……」
「全然役に立たなかったがな。それより、ゆらの姿が見えないがどうした?」
 いつもの面子に、リクオの姿があり驚いた。リクオが知恵熱出して寝込むはずなのに、私が寝込んでいる。話の大筋は変わっていないが、これはこれで癪だ。
「ゆらちゃんなら、制服買いに行ったわよ」
 むすっとしたカナの声に、私はそんなにゆらと仲が悪かったのかと首を傾げる。
「清継君、薬飲んだ?」
 リクオに問われ、氷麗から貰った薬をまだ飲んでなかったことに気づく。
「あー、まだだ。薬はあるんだが、水がねぇ」
「じゃあ、私が取りに行ってくる」
 カナは、パタパタと小走りにドアまで移動する。ドアノブに手をかけ開けたところでガシャンッと嫌な音がした。
「お待たせしました〜。清継く……ハウヮ、い…家長カナ…」
 床に散らばる私のご飯。ああ、無残な事になっている。
「及川さん」
 ショックを隠せないのかガクッと肩を落とす島に、唖然としている清十字怪奇探偵団メンバー。そして、静かに怒りを撒き散らすカナ。
「何で及川さんが、ここにいるの?」
「お見舞いに来てたからに決まってるじゃないですか」
 オホホホッと笑って誤魔化す氷麗に、私はハァと思わずため息が出た。
「おーい、二人とは怪我は無いか?」
「は、はい」
「大丈夫」
 修羅場化しそうな状況に、いち早く気づいた私はすかさず男共に指示を出す。
「奴良、悪いが及川が落としたものを片付けてくれ。島は、水持ってきてくれ」
「う、うん」
 テキパキと割れた皿を片付けていくリクオに雑用は任せ、カナと氷麗を呼ぶ。
「頼むから大人しくしてくれ」
 何もするなと厳命していると、島がお水を持ってきてくれて受け取る。
 氷麗から貰った薬をサラサラと口に含み水を飲む。あまりの不味さに吐き出しそうになったが、根性で押し留める。
「しかし、清継君も一番街の事件に巻き込まれるなんて災難だったね」
 自分から首を突っ込みに行ったようなものだから、災難だと果たして言い切れるのかどうか不明だ。
「清継君が無事で良かったっす」
「心配かけて悪かったな。薬飲んだら眠くなった。悪いが寝て良いか?」
 ファッとあくびを一つすると、カナが名残惜しそうに帰るよと言った。空気が読める奴で助かった。
「じゃあ、清継君お大事に」
「おう、また明日な」
 明日行けるかは不明だが、取敢えずそう反しておく。ぞろぞろと部屋を出て行く中、リクオだけがジッと私を見下ろしている。
「どうした?」
 苦しげに何かを我慢するような様子に問いかけると、彼はただ一言『無事で良かった』と言った。
 昼のリクオに記憶が無いはずなのに、思わず昨晩のことが思い出されドキッとする。
「……気をつけて帰れよ」
 私は誤魔化すように笑いモゾモゾと布団の中に入り狸寝入りをすると、漸くリクオも部屋を後にした。
 自分の知っている物語と異なる流れに、今更ながらにゾッとした。軌道修正がきかないところまで来ているのだと知らされた気がした。

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