小説 | ナノ

act21 [ 22/199 ]


 私は、非常に現在進行形で困っている。何故か。雪女もとい氷麗が、滂沱しているからだ。
「ううっ…おいたわしや。玉のお肌に傷がぁぁあ……。申し訳ありません。もっと早くに駆けつけていれば」
「助けてくれただけで十分だから、ありがとうな」
「でも、でも……」
 首元の血が気になるのか一向に泣き止まない氷麗に、私はどうしたものかと悩む。リクオに視線を移すと、彼は不機嫌そうに私を見ていた。
 泣かしたのは私であって私じゃないし。そんなに睨まなくても良いだろう。そもそもリクオが来るの遅いから怪我したのだ。云わばとばっちりの被害者。
「雪女、あんまそいつを困らせんな」
「うぐっ……せめて、怪我の手当てだけでも」
 そういい募る姿は必死で、断ったら泣かれるのは必至。あーうーと唸っていると、ゆらがズカズカと氷麗の前に立ち私の腕を引っ張った。
「妖怪は悪や! 自分から妖怪の巣窟に足運んで危険な目に遭いに行くつもりか?」
「なっ…私が清継君を危険な目に遭わせるって言うの?」
「そう聞こえへんかったんか? 耳遠いな」
 氷麗とゆらの間にバチバチと火花が見える。ハッキリ言って怖いのだが、口を挟まないと収拾がつかないだろう。
「ゆら、大丈夫だ。お前やカナを助ける妖怪の大将の部下が、そんな事しねぇよ。助けて貰ったんだ。ありがとうって言うべきだろう」
「うちらは、そこの馬鹿大将の派閥に巻き込まれただけや! とばっちり食らったいわば被害者!! あいつは、旧鼠を退治しただけで人間を助けたわけやない」
「極論だな。俺は、手当てして貰ってから帰る。お前らを送ってやれなくて悪いが帰れるよな?」
「何言ってんの!」
 ゆらの劈く声に私は顔を顰める。ぶっちゃけて言おう。今、立っているだけでもやっとなのだ。
 血は止まったようだが、相当出血してしまったせいか貧血を起こしている。
 グラグラする頭で何とか踏ん張っている私の体が、ふわりと浮いた。
「いい加減にしろ。こいつの顔を見てみろ。真っ青じゃねーか。こいつは、俺が責任持って預かる。指一本触れさせやしねーよ。だから、お前とカナちゃんは先に帰れ」
 姫抱っこされて暴れる気力もなくグッタリとリクオの腕に抱えられる私を見て、ゆらは大きなため息を吐いた後、私の手を取り貸していた数珠を嵌めてくれた。
「……その言葉、信じるのは今回だけや。清継君に何かしてみぃ。花開院総力挙げて潰しに掛かってやるからな!」
 リクオはゆらを一瞥した後、
「やれるもんならやってみろ」
とニヤッと笑みを浮かべて百鬼夜行を引連れその場を後にした。


 男が姫抱っこでご町内を闊歩されているわけだが、これが本当に人気のない夜明け前で良かった。
「髪紐はどうしたんだい?」
「……捕まった時に頭を殴られた。多分、その拍子に解けて落ちたんじゃないのか」
 あ、ヤバイ。苔姫にどやされる。おのれと云う奴はぁあ!! …などと怒声と一緒に物が飛んでくる情景が安易に想像できる自分が嫌だ。
「そうやって髪を下ろしてると女に見えるな」
「てめぇも人のこと言えないくらいに女顔だろうが」
「でも、女にゃ見えねーだろう」
 クツリと笑うリクオに、私は言い争う気力もないので口を閉ざす。
「……を、」
「ん?」
「怪我を、負わせて悪かった」
 苦しげな声で言われた謝罪の言葉に、私はベシッとリクオの頬を叩いた。
「あいつらは、あんたの部下じゃねぇ。謝罪される道理もねぇ。この怪我は、俺がゆら達を守ろうとして作った怪我だ。あんたには感謝してる。ゆらや家長を助けてくれてありがとう」
 リクオは、大きなため息を一つ吐いた後、物凄く失礼なことを宣った。
「本当に誑しだなお前」
「はぁ!? てめぇに云われたくねーよ!」
 その気もないくせに思わせぶりな態度を取るのが上手いというか、それが標準装備されている男に言われたくはない。
「余所見してる暇なんて与えてやんねーよ」
 クツリと笑みを浮かべたかと思うと、触れるだけの口付けに私は唖然とする。何こいつ。本当に昼のリクオと同一人物なのか?
 唖然とする私をよそに奴はクツクツとさも楽しそうに笑っていた。
 奴良邸に連れ帰られた私は手当てをして貰った後、三羽烏に送って貰う事となった。しかも、またしても姫抱っこ。何故、ささ美に抱き上げられなきゃならんのだ!
 普通は、男だろう。黒羽丸かトサカ丸でしょうに。帰宅するまで羞恥プレイを強要された私は、貧血に加え精神疲労がピークに達し学校を休む羽目になるのだった。

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