小説 | ナノ

act18 [ 19/199 ]


 客間に戻ると、そこには誰も居なかった。
「あいつら、勝手に出歩いてるな。……お仕置きしてやる」
 記憶を呼び起こしながら彼らが通ったであろう場所を巡回する。途中ですれ違った妖怪は見ていない。私は、見てないぞ。
 大浴場に足を止め、ガラッと開けると妖怪がカッポーンッと風呂に浸かっていた。
 お互い固まるが、復活したのは私の方が早かった。
「ああ、悪いな。俺の連れ知らないか?」
「陰陽師の娘が来たが直ぐどっかへ行ったぞ」
「そうか、悪かったな。あいつらは、俺が回収しておくからもう暫く隠れておいてくれ。あ、奴良には内緒な」
 自分が妖怪のクオーターであることを隠したがっているリクオに要らぬ気を使わせたくない。
 大浴場の戸を閉めた後、私は次の場所へと向かう。私の記憶が正しければ、仏間に居るはずだ。
 仏像の中ですし詰めになっていたのを思えば、妖気も集中しているに違いない。
 妖気が強い場所を探り歩いていると、KEEP OUT―大量冷気発生中 絶対入るな by雪女―の張り紙があった。
「バレバレじゃねぇか。普通にしてりゃあ、島よりも感知能力が劣るアイツに見破れるとは思えんが、余程怖いんだな」
 私の家に来ていた時の氷麗を思い出すと、確かに異常なほど怯えていた気がする。
「こりゃ、早いことあの馬鹿共を回収しないと……」
 面倒臭いったらありゃしない。止めていた足を動かし、妖気が集中している仏間へと足を運ぶ。
 ガラッと戸を開けると、ゆらがペタッとお札を貼っているところだった。
 可哀想に、中に居るすし詰めの妖怪達は動きを封じられている。
 私は、無言でツカツカと札の貼られた仏像の前に立ちベリッと札を剥した。
「ああ! 何すんねん!! 人が折角貼ったのに」
「ゆら、他人様の物に許可無く触ってんじゃねーよ。ここは誰の家だ? 自分の家か? 違うだろう。家捜しするような真似してズカズカ歩き回り、人様の物を勝手に触る。そんなことが許されるのはRPGの世界だけだ。お前らがやってることは、単なる迷惑行為。一歩間違えれば犯罪だ。仮に妖怪が居ても、奴良がそれで困って助けを求めたか? 違うだろう。同じ事をされたとき、お前らはどう思う。俺だったら不愉快だ。分かったら、奴良に謝れ」
 ノンブレスで捲し立てるように説教をかますと、皆口々にリクオに対し謝罪を述べた。
「じゃあ、部屋に戻るぞ」
 ゆら達を仏間から追い出しに掛かる。ションボリと肩を落とす面子に、少々言い過ぎたかと思ったが、あれくらい言わないと効果は無いだろう。
 彼らの後ろをノロノロと歩いていたら、リクオが声を掛けてきた。
「清継君、ありがとう」
「あ? 別に礼を言われることじゃねーよ。つーか、お前にも言いたいことがあったんだ。嫌なことは、ハッキリ断れ。断ることは、悪いことじゃない。相手を傷つけるわけでもない。お前が、シャンとしないから調子に乗るんだ。あいつ等は」
 面倒臭い役回りをさせてくれたリクオにも文句を言うと、彼は素直に謝った。
「ごめん。嫌な役回りさせちゃって」
 なんだ分かってたのか。流石、食えない奴だ。
「そう思うなら、次からは自分で言えるよな」
「うん」
 この素直さが、彼の魅力なのだろう。計算しているのか天然なのか計り知れないが、素直さと強かさを両方併せ持つリクオに私はフッと笑みを浮かべた。
「ゆらの奴、悪気は無かったんだ。小さい頃から、陰陽師として色々あったみたいだしな。常識が抜けてるところがあるんだよ」
「清継君は、花開院さんと幼馴染なんだね」
「幼馴染の括りで良いのかは別だが、色々と世話になってるな」
 妖怪関係でとは言わなかったが、リクオは何となくそれを察して口を噤む。
「客間に戻ったらゆら・島・家長は足が痺れるまで正座させてやる」
「あ、あはははは……(ご、ご愁傷様)」
 ニッコリと笑う私の微笑に怒りを感じ取ったのか、リクオは乾いた笑みを浮かべた。


 宣言通り、ゆら・カナ・島の三名はお仕置きと称して並んで正座させた。
「うう……足が痛いよぉ」
 顔を顰めてモゾモゾと身体を動かすカナに、私は胡坐を掻きながらシレッとした顔で宣う。
「足崩したら後10分追加な」
「ええーっ!! ひ、酷い……」
 半泣きのカナに、必死で足の痛みに耐えるゆらは終始無言だ。島は悶絶している。
「奴良、こいつら正座し始めてどのくらい経った?」
「えっと、15分くらい?」
「そうか、じゃあ後5分な」
 ニヤッと宣言すると、悲壮な顔を浮かべる三名にいい気味だと笑ってやる。
「お、鬼ぃぃ〜〜」
「更に5分追加してやろうか、ん?」
「ご、ごめんなさい」
 5分追加と云う言葉に、カナは速攻で謝ってきた。リクオも流石に可哀想だと助け舟を出す。
「十分懲りたと思うからもう良いんじゃない?」
 リクオの言葉に、そろそろ許してやるかと思っていたらガラッと襖が開いた。
「おう、リクオ。友達かい」
 中に入ってきたのは、好々爺姿のぬらりひょんで片手に飴の入った袋を持っている。
 チラッと隣を見ると、リクオは驚きのあまりひっくり返っている。
 安心しろ。お前の爺さんは、ぬらりくらりと相手の懐に入る天才だ。絶対にばれないぞ。
「おーおー、珍しいのぉ。お前が友達つれてくるなんてなぁ。飴いるかい?」
 飴を渡して回るぬらりひょんに丁重にお断りした。梅ばあさんの不味い飴なんぞ超お断りしたいものの一つだ。
「どうぞみなさん。ワシの孫のことこれからもよろしゅう頼んます」
 ペッカーといい笑顔を浮かべるぬらりひょんに、ゆらも飲まれて返事をしている。
 目的の妖怪は目の前にいるってことに気付いているのは、恐らく私ぐらいだろう。
 ぬらりひょんが私を見てニヤッと笑みを浮かべた後、彼は部屋を出て行った。
 奴の登場に私は脱力し、正座していた三名に崩していいと言うとベタッと畳みに皆一様に寝そべっている。
「これに懲りたら、家捜しはすんなよ。次、そんな真似したら正座1時間だからな」
 激しく頭を縦に振る面々に、私はフンッと鼻で笑い。残りの時間を妖怪談義へと誘導し、日が落ちる前に解散することにしたのだった。

*prevhome#next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -