小説 | ナノ

act8 [ 9/199 ]


 しかし、ものの見事に廃れている校舎はガラスの破片などが散乱している。懐中電灯を片手に辺りを照らしていく。
 美術準備室と書かれた部屋を見つけ、私は中へ入った。美術の授業で使われるデッザン道具やビリビリに破かれた肖像が等、気味悪さをかもし出している。
 リクオは、挙動不審に辺りをキョロキョロと見渡している。恐らく、彼の組に所属する妖怪が居ないか査定しているのだろう。
「き、清継君どっか行かないでよ〜」
 ギューッと人の服を握りながら付いてくるカナを引き摺りながら足を進めていると、おかっぱ頭の妖怪と目が合った。
 案の定と云うべきか、普通に居たな。素で無視して別の場所へと移動すると、後ろでリクオが棚をずらし押し潰していた。グシャッという音は聞こえなかったことにしよう。
「ね、ねぇ…何か変な音しなかった?」
「き、気のせいだよ」
 焦るリクオに、私は本当に嘘が吐けない奴だと乾いた笑みを浮かべる。
「そりゃ、お前が怖い怖いと思ってるからちょっとした物音でも変な音に聞こえんだよ。お守りはあったか?」
 リクオにフォローを入れつつ、お守りの有無を確認するがやはり美術室には落ちてないようだ。
「いや、見つからないっす」
「じゃあ、次行くか」
 廊下を歩きながら赤いお守りを探しつつ、給湯室を見つけた島が立ち止まる。
「水周りですね。危なそう……開けてみますか?」
 止めておいた方が良いだろう。清塩があるとはいえ、限度がある。危険度を自ら上げる必要もないので、そっとしておけと言おうとしたが遅かった。
 霊感ゼロの島が手を掛けドアを開けようとした。思わずポケットに忍ばせていた清塩を触れるが、それよりも先にリクオが慌ててドアの前に立ちふさがる。
「だめぇえええーっ!!」
「何だよ、リクオォ。おどろかせやがって」
「あ、あははは……なんだか喉が渇いちゃって」
 乾いた笑みを浮かべながら誤魔化そうとするリクオに、私は心の中でよくやったと拍手を送る。
 良くないものが、多分居るのだろう。段々青ざめる顔が、それを物語っている。一体何を聞いたのやら。
「変な奴。行きましょう、清継君」
 スタスタと先を歩く島に、リクオは無駄に早い俊足を活かし彼の前に出て言った。
「僕が先に行くよ」
 リクオが離れたことを確認した私は、ポケットに忍ばせていた御札を貼っていく。京都にある由緒正しき陰陽師の本家から取り寄せた札だ。
 そう簡単には破られはしないだろう。リクオにボコボコにされた妖怪達が、恨みを持って襲いかかってこられては困るからな。
 前方を歩く面々を尻目に、私は頼まれていた赤いお守りを探して歩く。既に当初の目的を忘れている奴等は無視だ。清塩もあることだし、何とかなるだろう。
「あ、あれ…お守りじゃない?」
 背中にくっついていたカナが、クイッと私の服を引っ張り廊下に落ちていたお守りを指差して言った。
 私はお守りを拾い上げて色形を確認した後、それをポケットに仕舞う。
「家長、サンキューな。お前のおかげで見つかった。後は、アイツらを回収して終わりだな」
 ポンッと彼女の頭を軽く叩き、恐らく食堂に向かったであろうリクオ達の元へ向かう。
「うわぁああああーっ!」
 島の悲鳴に、私は舌打ちを一つし駆け出した。
「私を置いてかないでーっ」
 カナが、泣きながら走って付いてくる。食堂の前で腰を抜かしている島と、彼に襲い掛かろうとしている妖怪と鉢合わせる。
「奴良、家長を頼む。島は、俺が何とかする」
 清塩を妖怪にぶつけ一瞬怯んだ隙に島の襟を掴み食堂の外へと引き摺った。
「何ボサッとしてる! 逃げるぞっ」
 島を見ると完全に気を失っており、私は最悪だと呻いた。札は、リクオが蹴散らした妖怪達に使って手元にない。
 清塩もそれぞれに渡してあるから、あの一回きりになる。庇いきれないと判断した私は、島の身体を覆うように目を瞑った。
「リクオ様だから言ったでしょう」
 フフッと笑みを浮かべながら、物凄い爆音と共に妖怪を一掃する彼の下僕の声がした。漸く原作通りに進んだかと、私は一息吐く。
 烏天狗まで登場し、漸く話が纏まったところで声を掛けた。
「奴良、家長無事か?」
「き、清継君!? 今の聞いてたの?」
 おお、凄い焦っぷりだ。冷や汗がダラダラと流れて目が彷徨っている様は面白いが、私は知らぬ存ぜぬを通す。
「何の話だ。この阿呆に巻き込まれて倒れた時に、軽く気失ってた」
 島を蹴り飛ばしながら嘘を吐くと、彼はそれを信じたのかホッと息を吐いている。
「頭打ったんですか?」
「ああ、多少な」
 氷麗が、心配そうな顔をするので私は軽く手を振り大丈夫だと答えるが彼女は眉を顰めたままだ。
「あの……冷やしたほうが良くないですか?」
「大丈夫だ。それより、家長は気を失ってるみたいだな」
 島同様に気を失っているカナに私はどうするかと思案する。島も家に送り届けないといけないわけで、嗚呼本当に面倒臭い。
「取敢えず出るか」
 依頼品は無事回収できたわけだし、一秒たりともこんなところに居たくない。島は倉田が、カナは私が運び外へと連れ出した。
 学校の近くの公園まで逃げてきた私達は、気絶した二人をどうするかということになった。
「倉田、悪いがこいつを家まで送り届けてくれないか? 俺は、家長を届ける。奴良、お前は及川を送ってくれ」
「え、でも…カナちゃんの家からだと正反対になるよ」
 難色を示すリクオに、私は『おぉ!』と目を輝かす。LOVEフラグが立ったのか? そう思ったのが間違いだった。
「カナちゃんを送った後、一人で帰るんでしょう? あの辺り、痴漢が出るって言ってたから危ないよ!」
 物凄く真剣な目で語るリクオに、私はヒクッと顔を引きつらせる。仮にも男に言う言葉じゃないと思う。
「お前、俺の性別忘れてやしないか?」
「そうですよ! 清継君、綺麗ですから不貞の輩に襲われちゃいます。倉田君に頼んだら良いじゃないですか!」
 襲われる前提で話す氷麗に、私は眩暈がした。主従って似るものなんだろうか。呆気に取られる私を他所に、倉田も異論はないのかカナと島を俵担ぎしている。
「………悪い、倉田。二人を頼んでいいか?」
「ああ、任せろ」
 私は、倉田に簡単な地図を渡し二人を送ってもらうように頼む。私の方はというと、リクオと氷麗が家まで送られる羽目になったのは言うまでもない。

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