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act4 [ 5/199 ]


 苔姫から貰った髪紐だけでは、対処が難しい妖も多い。相手を知り、その対処を知らなければ危険は回避されないと悟った。
 情報を集めると言っても学校の図書室や市の図書館だけでは情報が少ない。あまり使いたくない手だが、親の財力に頼るしかないだろう。
 テレビを見て寛いでいる母親に、私はおずおずと切り出した。
「母さん、パソコンが欲しいんだけど……」
「パソコン? 何に使うの?」
「勉強に使いたい。後、インターネットも引きたいんだ。ネット代は、俺の小遣いから引いて欲しい」
「勉強と言ってもねぇ……」
 パソコンに対してと言うよりは、ネットに対して拒絶反応を見せる母親に私はさも当たり前のようにインターネットがどんなに素晴らしいか語った。
「塾に通わなくても、ネットを通じてリアルタイムにマンツーマンで勉強を教えて貰えるんだ。普通の塾の費用と比べてもネット上の方が安かったりするし、夜遅くまで残って勉強する塾よりよっぽど効率が良いと思う。確かに、インターネットは変なサイトとかあって怖い面もあるけど、ちゃんと対処を知ってれば全然平気なんだ。例えば、パソコンにフィルタリングソフトを入れれば、アダルトサイトにアクセスできなくなるんだよ」
「……そこまで言うなら買ってあげるわ。ネット代も出してあげる。成績を一つでも落としたら、ネットもパソコンも没収するからね」
「はい」
 渋っていた母親から許可をもぎ取ると、私は満面の笑みを浮かべて是と答えた。これで調べ物がスムーズに行く。
 ネット塾に関しては言い出した以上はするが、今の学力ではなく生前の勉強していたところから進めたい。その辺りは、母親に相談しなくとも良いだろう。
「今度の休みにパソコンを見に行きましょう」
「分かった。ネットは、俺が手配しておくよ」
 モバイルも良いが、光を引きたい。ADSLでは遅いし、いざという時にリンクが切断されては困る。
「私より清継の方が分かってるみたいね」
「そうでもないよ」
 頬に手をあて、ホゥと溜息を吐く母親に私は苦笑を浮かべるだけに留めた。


 週末、パソコンを買いに浮世絵町駅前にある家電量販店に来ていた。母親は新しいレンジが見たいと別行動を取ることになり、欲しいものが見つかったら携帯で連絡することで話が纏まった。
 展示されているパソコンを見ながら、周辺機器も揃えた方が良いかと思い始め、店員を捕まえてはマニアックな質問を延々としていた。
 ある程度買いたいものも決まり、店員に在庫確認をしてもらっているとヒュンッと目の前を何かが遮った。
「何だ?」
 目の前を遮ったものを確認するため辺りを注意深く見ると、人差し指くらいの大きさをした小さな鬼が居た。
 見なかった振りをするべきか。そう思ったが、バッチリ目が合いましたとも。しかし、襲ってくる様子はなく身体を丸めて震えている。
 よく見ると、足の辺りを怪我している。
「お前、怪我してるのか?」
「キィ……」
 小さく鳴いた鬼に、害はなさそうだと判断した。
「取敢えず、手当てしてやるから少し我慢な」
 小鬼の身体を持ち上げ肩に下ろす。通常なら見えない存在だが、仮に見えたとしてもこの程度の大きさなら人形だと言い張れるだろう。
「落ちないように髪を掴んどけ」
「キィー」
 俺は、小鬼を肩に乗せたまま在庫確認から戻ってきた店員と何事もなかったかのように話を進めた。
 母親を携帯で呼び出し、結局パソコン以外に複合機と予備インク、A4版の用紙を購入した。
 車を出してもらって本当に良かったと思う。結構な荷物になったし、あれを電車で持って帰るとなると結構な重労働だ。
 荷物を部屋に運び、肩に乗せていた妖を下ろしてやる。
「消毒液とか持ってきた方が良いかな。お前、ここで大人しくしてなよ。救急箱持ってくる」
「キィ」
 私の言葉に小鬼はコクリと小さく頷いた。こうしてみると可愛いもんだ。居間に置いてある救急箱を取りに部屋を出る。
 母親に怪訝な顔をされたが、そこは持ち前のデカイ猫を被って嘘八百並べ立ててサラリと交わす。
 細かく千切った脱脂綿に消毒液を吹きかけ怪我した足を拭いてやる。
「キュィイ〜ッ」
 ジタバタと痛がり悶絶する小鬼に、私は可哀想だと思いつつも傷の周りの汚れを拭っていく。
「我慢する! このまま放置してると足腐っちゃうよ」
 大嘘だが、小鬼には効果覿面だったようでプルプルと身体を震わせながらジッと我慢している。
「思っていたよりも酷いな。軟膏を塗って様子をみよう。しかし、何だって怪我なんかしたんだ」
「キィー、キィキィ」
 一生懸命説明しようとしているのは伝わるのだが、いかせん何喋っているのか全然分からない。
「ごめん、何喋ってるのか分かんない」
 そう言うと、小鬼はガーンッと効果音が付くかと思うくらい落ち込みを見せた。
「お前、奴良組の妖か?」
「キィキィ!!」
 コクコクと仕切りに頭を縦に振る小鬼に、私はやっちまったと頭を抱えたくなった。
 関わらないようにしたいのに、自ら関わってどうすんだよ!!
「キィ……」
 しょんぼりと肩を落とす小鬼に、放っておくわけにも行かず私は家に帰してやると約束をした。
「あー……うん、明日家に帰してあげるから心配しなくて良いよ」
「キィ」
 嬉しそうに身体全体で喜びを表す小鬼に、私はリクオに見つからずにどうやって小鬼を帰そうかと考えた。

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