小説 | ナノ

act5 [ 6/199 ]


 小鬼を帰す方法。それは、学校へ行く前にリクオの家に寄ること。真面目な彼のことだ。遅刻はしないだろう。バスに乗り遅れそうにはなっているけど。
 家を出るタイミングは同じ。バスに乗る時間をずらせばいい。学校の用意をし終えた私は、小鬼へと声を掛ける。
「じゃあ、行こうか」
「キィ!」
 ピョンピョンと飛び跳ねる小鬼に、私は違和感を受けジーッと彼を凝視した。ヒョイと抓み上げ上から下まで眺めると、昨日怪我していた足の傷が綺麗に塞がっていた。
「結構酷い傷だったのにもう治ってる。妖怪って、傷の治りも早いのか?」
 リクオもボコボコにされても頑丈だったし。そういうものなのだろうか。
「ま、いっか。揺れるから髪掴んどきなよ」
 ランドセルを背負った私は、小鬼を肩に乗せる。リビングに居た母親に声を掛けて家を出る。いざ奴良邸へ出陣だ。


 公園で時間を潰し、リクオが乗ったであろうバスの時間を確認した後、私は奴良組の総本山へ足を運んだ。
 純和風の立派な佇まいに私は思わずポカーンッと口を開いて魅入ってしまった。リクオの家に来るのはこれが初めてだが、どんだけでかいんだ。
 妖気の桁も半端なく、リクオの母若菜を尊敬してしまう。ウジャウジャ居る妖怪の巣窟で平然と過ごせる彼女は、流石極妻。
「こっからなら一人で帰れるだろう」
 肩に乗せていた小鬼を地面に下ろし中へ入るように促すが、なかなか云うことを聞いてくれない。
「キィキィ」
 それどころか、人の靴下を掴みグイグイと引っ張ってくる。
「靴下引っ張るなって。俺は、学校に行くんだ。じゃあな」
「キィーッ!! キィ、キィ…」
 小鬼を無視して行こうとすると、円らな瞳から大粒の涙を零し泣き始めた。うわっ、傍から見たら完璧私悪者じゃないか?
「泣くなって。あー、もうっ……お前は何がしたいんだよ」
 小さな子供みたいに泣き始めた小鬼を何とか慰めようと頑張るが一向に泣き止まない。
 しかもキィキィしか云わないから何言ってるのかサッパリだ。
「うちの前で何してるの?」
 急に声を掛けられたせいか、ビクッと身体をびくつかせる。挙動不審過ぎるぞ私!
 バッと振り返ると、首の辺りにマフラーを巻いたお兄さんが立ってました。リアルで見た首なしは格好良かった。
「ここの家の方ですか。じゃあ、コイツをよろしくお願いします。俺は、これで失礼します」
 足にへばりついていた小鬼を鷲掴み、首なしに押付けると逃げの体勢を取るが、世の中上手くいかないもので妖怪の大将が行く手を阻んでいた。
 手には、どこからパチッたのか知らない高級菓子の箱がある。
「なんじゃ、このガキんちょは?」
 ジーッと人の顔をガン見するのは止めてくれ。しかもお供に連れて歩いている納豆小僧。今更納豆に戻っても意味が無いぞ。
 冷や汗をダラダラ掻きつつも、私の心の突っ込みは止まらない。
「家鳴りをその子供が連れてきまして」
「ほぉ…おぬし妖怪が見えるのかい?」
 首なしの余計な一言にぬらりひょんは、私に興味を持ってしまったようだ。
「見えたら悪いか」
「なかなか気の強い女子じゃのぉ」
 ここは、怒るべきなのか? 暫し考えた後、私は拳を振り上げぬらりひょんの頭をボカリと殴った。
「うおっ!? 痛っいのぉー」
「総大将大丈夫ですか? 乱暴な子供だな」
 首なしの目が剣呑なものになるが、殺気を放ち私の命を狙い追いかけてくる妖に比べれば何百倍もマシというもの。
「俺は男だ」
 憮然とした顔を作り文句を言うと、ぬらりひょんは目をパチクリさせ物凄くガッカリした顔で私を見て言った。
「おぬしが、女子ならワシの孫の嫁にと思ったんじゃがなぁ……残念じゃ。別嬪なのに」
 生前の私に言ってくれたら狂喜乱舞してただろうに。今言われても全然嬉しくないのは何故だろう。やはり、器が清継だからだろうか。
「全然嬉しくない」
「キィキィ」
 首なしの手から降りぬらりひょんの元へ走ったかと思うと、彼は身振り手振りで何かを訴えている。
 傍から見れば妖怪版阿波踊りを見せられている気分になるのだが、敢てそこは口を挟まないことにする。下手なことを言って又泣かれるのは面倒だ。
「ふむ、家鳴りが迷惑をかけたようじゃな。礼を言う」
「どう致しまして。じゃあ、俺はこれで失礼します」
 やっと解放される! そう思ったが、ガシッと服を掴まれつんのめる。
「何するんですか!」
「折角じゃ、礼をせんとな。寄っていけ」
 礼なんぞ要らん。寧ろ、ありがた迷惑だ。嘘っぱちスマイルを顔に張り付かせキッパリスッパリサッパリと一刀両断する。
「遠慮します。俺、学校に行くんで」
「今から行っても遅刻じゃろう」
 ギチギチと人の服を掴んで離さないぬらりひょんと、逃亡を決め込む私の静かな攻防はさぞ滑稽に映っただろう。
「あっ! あんなところにミニスカ美女が!!」
「なにぃぃい!」
 ぬらりひょんの意識が逸れたのを私は見逃さなかった。ぬらりひょんの腕を払い脱兎のごとく逃亡した。もちろん、全力疾走でだ。
「騙すなんて卑怯だぞ!! 待ちやがれ!」
 背後でギャイギャイ喚くぬらりひょんを無視しながら、俊足を誇る足で何とか逃げ切ることに成功した。
 バス停に辿り着き盛大な溜息を吐いた私は、小鬼を帰したことで安心していた。
 これを切っ掛けにぬらりひょんが私のことを調べ、更に5年後の再開した際に色々と絡まれる羽目になるなどと思いもしなかった。

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