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二十参夜 [ 98/218 ]


 真っ白になっている敏次を置き去りにした佐久穂は、携帯電話を取出し成親にメールを打ち終えると、リクオに詰め寄っていた。
「な・ん・で、アンタが人のお見合いを知ってるのよ! 穏便に断るつもりだったのに最悪っ」
「お見合いの件は、カナちゃんから聞いたぜ。日時や場所は、浮世絵町中のカラスや猫に調べさせた」
 シレッとした顔でそう答えたリクオに、佐久穂はくらりと眩暈を起す。
 そして、フルフルと肩を震わせ怒号した。
「貴様にプライバシーという文字はないのか!」
「妖怪だからな。あるわけねぇな」
 ハッと鼻で笑われ、佐久穂の怒りが頂点に達する。
「最っ低!! あんた何様のつもりよ。人の領域にズカズカ入り込んで……そんなに私が信じられない?」
 信用されてなかったのかと思うと怒りよりも、悲しさが募る。
「おめぇも一緒だろうが。何で相談しねぇ。そんなに俺は頼りないかい?」
 リクオも一緒の事を思っていたようで、苦い顔で普段見せない弱い部分を佐久穂に見せた。
「そうね、頼りないわ。人は良いのよ。断れば済むし。神様は……一筋縄ではいかない。今のリクオに彼らと対等に渡り合えるなんて思えない」
 ハッキリと言い放った佐久穂に、リクオは悔しそうに唇を噛締めた。
「だから、早く三代目を襲名して名実共に魑魅魍魎の主になりなさい。その時、リクオが私をまだ好きでいるなら貴方のものになるわ」
 一点の曇りも無く澄んだ瞳が、リクオを捕らえる。明確な彼女なりの答えに、リクオは苛立っていた気持ちがフッ静まり落ち着いた。
「その言葉違えるなよ」
「女に二言はない」
 佐久穂の嘘偽り無い言葉に、リクオはフッと笑みを零し彼女の腰を抱き上げる。
「ヒャァッ?! ちょっ、下ろしてよ!」
 突拍子も無いリクオの行動に、俵担ぎされた佐久穂は手足をバタバタさせる。
 リクオは、それすらも楽しいのかクツクツと笑っている。
「下ろしたら逃げるだろう。それに――仕置きは終っちゃいねぇぞ」
 ボソリと呟かれた言葉に、佐久穂の顔から血の気が引いた。
「な、な……」
「言ったはずだぜ。俺も“あいつ”も相当嫉妬深いぜ……って」
 確かに言われたが、それとこれと一体どういう関係があるというのか。
 尻をやわやわと撫でる手が、この上なくやらしい。
 そういう意味での仕置きと言いたいのがよく分かり、泣きそうになる。
「丁度、明日と明後日は学校が休みだ。良かったな」
「いっ……やぁああああ!」
 抱き潰す気満々のリクオに、この分だと昼のリクオもドス黒い笑みを浮かべながら便乗するに違いない。
 何とかして逃げなければと思うのに、リクオに易々と捕まってしまった佐久穂は、問答無用で奴良邸へと連れて行かれたのだった。


 道中で暴れまくった佐久穂は、奴良邸に着いた頃には大人しくなっていた。
 リクオの部屋に連行された佐久穂は、畳の上に下ろされ手で口元を多いオエッと吐き気をもよおしていた。
「……もうちょっとマシな運び方しなさいよ」
「お前が大人しく運ばれるなら、それなりの扱いはしたんだがなぁ」
「……ちっ」
 リクオはお姫様抱っこの事を言ってるんだろうが、そんな事されたら唯でさえ洒落にならない噂が出回っているというのに、信憑性を上げるような自殺行為は避けたい。
「女が舌打ちなんてすんなよ」
「うるさい」
「まあ、そんなお前も好きだけどな」
 サラリと恥ずかしいことを言って退けるリクオに、佐久穂の頬が赤く染まる。
 肩を押されゆっくりと後ろに倒れる。背中にリクオの腕が回っているためか、背中が畳みに押し倒された時の衝撃はない。
「夜は長いんだ。楽しもうぜ。――孕むまで犯してやるよ」
 ニヤリと妖艶な笑みを浮かべるリクオに、佐久穂は背中がゾクリと冷えた。
 初めて身体を繋げたあの夜を思い出し青ざめる。昼のリクオが「出来ちゃった婚もありかな」だと冗談めかして言っていたが、今ハッキリと理解した。あれは、本気の言葉だ。
「私は十五歳なのよ! 結婚する前に赤ちゃん作るなんて絶対嫌だからね!!」
「妖怪じゃあ十三で成人だ。問題無い」
「私もあんたも3/4は人間だろうが!! こんな時だけ、妖怪を主張するな!」
「既成事実がありゃぁ、誰も文句言わねぇよ。佐久穂なら俺の下僕共も納得しているぜ。ジジイに至っては、早く曾孫を見せろって言ってるくらいだしな」
 自分の意思を全く無視した発言に、佐久穂は唖然とする。流石ぬらりひょんの孫……と思ってしまった事は口に避けても言えない。
「お喋りはここまでだ。今日は寝れると思うなよ」
 リクオの手が、佐久穂の帯に伸びる。このままでは、本当に孕むまで犯され続けかねない。
 止まっていた思考をフル回転させ、佐久穂はリクオの手を掴み精一杯の笑みを浮かべて言った。
「この着物高いのよ。だから自分で脱ぐわ」
 佐久穂の言葉は、意表をついたのかリクオも目を丸くしている。
「……良いぜ。それも楽しそうだ」
 リクオは、圧し掛かっていた身体を起しドカリと畳みの上に座る。佐久穂は、襖のある方へ身体をずらし帯止めを外し畳の上へと落とした。
 帯を外し、着物を脱ぎ落とす。長襦袢の姿になった佐久穂は、クルリとリクオに背を向け衿を掴み胸が覗くくらいに乱すと大きく息を吸い悲鳴を上げた。
「キャァアアアアアアア!!! 氷麗(つらら)、毛倡妓(けじょうろう)助けてぇぇえええ!」
 佐久穂の悲鳴は、奴良邸を震撼させるくらい大きなもので、悲鳴を聞きつけてきた氷麗(つらら)達がリクオの部屋に飛び込んでくる。
 彼女達が見た光景は、リクオに乱暴されかかって泣いている佐久穂の姿だった。
「若ぁああ、これはどういう事ですかっ!!」
「合意もなしに着物を脱がすなんて、それでも男ですかっ!」
 佐久穂の身体を抱きしめる氷麗(つらら)と、庇うように前に立つ毛倡妓(けじょうろう)にリクオも黙ってはいなかった。
「佐久穂が自分で脱いだんだ!」
「……酷い」
 まるで自分が淫売ではないかと嘆く佐久穂を見た氷麗(つらら)と毛倡妓(けじょうろう)の怒りは頂点に達した。
「「若……頭をしっかり冷やして反省して下さい」」
 毛倡妓(けじょうろう)の髪がリクオの身体を縛り上げ、氷麗(つらら)の呪いの吹雪・雪山殺しで彼を気絶させた。
 毛倡妓(けじょうろう)は、髪を元に戻し佐久穂の肩に着物を掛ける。
「ありがとう、二人とも。お陰で助かったわ」
 リクオが起きた時の報復が怖い気もするが、貞操が守れた事だけでも良しとしよう。
 毛倡妓(けじょうろう)と氷麗(つらら)が一緒に寝てくれると申し出てくれたので、佐久穂はお言葉に甘えて一緒に寝ることにした。


 翌日、二人から白い目で見られているリクオの機嫌は、案の定悪かった。
「昨日は、やってくれたね」
「……さて、何のことかしら」
 嘘泣き+演技力で見事『リクオに襲われて泣いている図』を表現してみせた佐久穂の思惑に、氷麗(つらら)と毛倡妓(けじょうろう)が引っかかってくれ、痛い目をみたリクオとしては煮え湯を飲まされたようなものだろう。
「佐久穂……覚えてろよ」
 吐き出された言葉の重みに、佐久穂の顔が盛大に引きつった。
 昨日のような手はもう食わないぞと暗に言われ、隙あらば手を出してやると込められたメッセージに、ピルの服用を即座に決意したくらいだ。
 その後、佐久穂の予測は的中し事ある毎に押し倒される事となる。

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