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十五夜 [ 91/218 ]


「納得して頂けたところで、もう遅いので早く寝て下さいね。では、お休みなさい」
 パタンと襖を閉め、彼女の部屋の前を警護している男子諸君に声を掛けた。
「恐らく、今日も出ると思うのでしっかり警護して下さいね」
「安部さんは、どこへ行くんですか?」
「私? ちょっと罠をしかけに……ね。着いてきちゃダメよ。死んじゃうから」
 佐久穂の脅しに、清継はゴクリと息を呑む。
「護衛の方、頑張りますっ!」
「はい、お願いします」
 佐久穂は、回収した御札が入った箱を手にスタスタと去っていく。
 彼女が来た場所とは、トイレの前。この屋敷の鬼門だ。
 御札の入った箱を置き、少し離れた場所で様子を伺う。
 時計が午前二時を指した頃だ。カタカタと箱が揺れる音を聞き、佐久穂は掛かったと細く笑む。
 一体、二体と札が妖の形を取り結界の張られてない品子の部屋へと向かって動き出した。
 佐久穂もそれを追いかけていると、リクオの声がした。
「ダメだ! 清継君、近づいちゃ……今すぐみんなのところへ帰るんだ。こいつら、妖怪じゃない。品子さんの部屋に出る!!」
 どうやら追っていた式は、リクオと対峙しているようだ。
 もう一体が戻って来たのを見て、腰にぶら下げていた鍔を手に妖刀村正を出す。
「鬼ごっこは終わりよ」
 式を一刀両断にし、落ちた紙を拾い上げる。
「リクオ君、大丈夫?」
 リクオの方も、祢々切丸で切ったと思われる式の紙屑が落ちていた。
「佐久穂さん……」
「気付いた? 彼女の言ってる邪魅とは違うのが居るわね。邪魅ではないけど……」
「邪魅って何者なんでしょう?」
「分からない。でも、彼女に害を及ぼそうとしているのは人かもしれないわね」
 札と称して書かれたそれは見覚えのあるもの。陰陽師と言っても流派がある。
 安部と花開院では、似ていても非なるものだ。
 救う事を前提にする安部は、護符や術も己の霊力を糧にして神々や精霊・時には妖の助力を請う事が多い。
 一方、花開院は滅するのを前提にしているため霊力のみを使用している場合が多い。
 札一枚、書き方は異なるのだ。恐らく、この札は花開院系列のものである。
「ちょっと、おいたが過ぎたわね」
 花開院がどうなろうと知ったことではないが、他の陰陽師までもがそうだと思われるのは断固阻止せねばならない。
 どうしてくれようかと考えていたら、品子の部屋から悲鳴が上がった。
 慌てて駆けつけると、頭から血を流している清継と滂沱している島の姿があった。
 ギャーギャーと騒ぐ二人にを他所に、真っ青になっている可奈を見つけ声を掛けた。
「何かあったの?」
「いたの!! お化けがいたのよぉぉおお!」
 恐慌状態の可奈に、佐久穂は尚も質問を重ねる。
「どんなお化けだった?」
「髪が長くて顔にいっぱい御札が貼ってあった。刀を持ってて今にも切りかかりそうで……」
 お屋敷に入る前に見た妖怪だろう。
「ねえ、みんな護符を見せてくれる?」
 そう言うと、お守りとして持っておくように渡したヒトガタを差し出した。
 一つずつチェックするも、傷一つ付いていない。
「……ありがとう」
 襲う時間などあったはずなのに、誰一人持たせたヒトガタが傷付いてない。
 彼女の言う邪魅は、もしかしたら彼女を守る存在ではなかろうか。
「品子さん、結界を張った部屋へお布団移動させて貰えます?」
「結界って……?」
「品子さんのお部屋以外は入れないように結界を張ったんです。と言っても、害のないものは通り抜けてしまうものですけど」
「氷麗(つらら)ちゃんは……熟睡してますね。私が一緒に寝るので、他の方は移動願います」
「私の部屋にも結界を張って!!」
「それは、ダメです。そんな事をしても何の解決にもなりません。邪魅に対する情報が少なすぎるので、明日は情報収集して対策を考えます。心配しなくとも大丈夫ですよ」
「安部さんは、ゆらちゃんと同じくらい有能な陰陽師なんだから! 大丈夫って言ったら、本当に大丈夫だよ」
 品子を安心させるかのように、鳥居がフォローを入れてくれて漸く渋々納得してくれた。

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