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十四夜 [ 90/218 ]


 仕方がなく、清十字怪奇探偵団の面々と合流した佐久穂は、彼らの後に続くように依頼者の家へと尋ねた。
 古い大きな屋敷の門前で依頼者が立っていたのだが、タタタッと駆け寄ってくるかと思ったら、
「貴方が、清継くんね!?」
と、リクオを凝視している。
「えっ?」
「大丈夫かしら……メガネはメガネでも頼りなさそうなメガネ男子って感じだけど。え? 違う? こっちの天パの方? ……これは、これで不安ね」
 ハッキリと失礼極まりないことを言って退けた品子に、佐久穂は思わず吹いてしまう。
 クククッと笑いを噛み殺していると、リクオに睨まれた。
「あれ? 清十字怪奇探偵団の人数が一人多いようだけど……」
「あ、それ私だわ。初めまして、菅沼品子さん。安部佐久穂です。祖父の名代で伺いました。よろしくお願いしますね」
 外面用の笑顔を貼り付け挨拶すると、
「依頼人の菅沼品子です。来てくれてありがとう。でも大丈夫かしら……。一応期待しています」
と、信用のない言葉で締め括り、屋敷の中を案内された。
「ふはははっ、凄いボロ屋敷だ。奴良君のところよりもボロいんじゃーないかい」
 少々八つ当たり気味に文句を言う清継に、大人気ないと佐久穂は零した。
 屋敷に入る瞬間、背後から―その娘に近づくな―と声が聞こえ、バッと振り返る。
 既に声の主は消えていたが、ハッキリと大きな妖気が残っている。
「……これは、厄介ね」
 面倒臭いと思うものの、依頼を受けた以上はやるしかない。
 足手まといが、数名いるので対処法も考えなくてはならない。
 通された彼女の部屋のいたるところに札が貼られている。その多さは半端ない。
 既に神主らしき男と彼女の母親と思われる女性が、部屋に居た。
「品子ちゃん、また新しい人連れてきたの? お払いなら神主さんが毎日来てくれてるじゃない」
 困った顔で品子を嗜める母に、
「だって効かないんですもん。そこの神社」
 ズバッと言い切った彼女の顔は、切羽詰った人の顔だ。
「その件の妖怪は、貴女にどんなことするの?」
「ここよ。昨日もここに出て……私に覆い被さるように、そいつはじっと私を見るの」
「でもその腕、掴まれたんじゃないの」
 包帯を巻いている右腕を指差すと、品子は目を大きくして涙ながらに訴えた。
「これを見て。昨日は、こうして痕が残るくらい強く握られたの……。もう、次は何されるか分からない。私、怖いんです」
 品子の腕の痕を見ると、確かにさっき私に忠告した妖怪と同じ気を感じる。
「ちょっと話が違うじゃんかーっ!! ゆらちゃんは、何で来てないの?」
「危害加えてるじゃない」
 慌てふためく鳥居と巻が、半泣きになって喚いた。
「さあ、最近学校休みがちなんだよね……」
「はあ? 何で!?」
 ヒステリックになる巻に、佐久穂は大きな溜息を吐いた。こいつら、完全に自分が陰陽師だって事を忘れているな。
 ゆらの方は、恐らく家の関係で休むことが多いのだろう。自分もそうだから、何となく分かる。
「まあまあ、ここで言い争ってもしょうがいないから様子を見ましょう。すみません、品子さんのお母さん。客間を用意して頂けますか? 男の子は、そっちで就寝。私達は、品子ちゃんと一緒に寝る。実際にどんな現象が起こるか見てみないことには何とも言えないもの」
 パンパンと手を叩き、品子の部屋に女の子だけを残すと鞄にしまっていた人型の護符を渡す。
「ここに生年月日と名前を書いて」
「こんな紙切れにそんな事書いてどうするのよぉ」
 恐怖で泣き出しそうな鳥居に、
「それはヒトガタよ。何らかの攻撃を受けた時に、それが身代わりとなってくれる」
 佐久穂の言葉にホッと安堵した彼女達に、酷だとは思うがハッキリと言った。
「それと結界は、今は張れない……。邪魅が、何の目的で品子さんのところに出るのか原因を突き止めないとどうする事も出来ないわ。それにね。バラけてるより一箇所に固まってくれた方が、守る方としては楽なのよ」
「ううっ……今日は、我慢っすか」
「我慢ね」
「あ、後……屋敷に貼ってある御札全部剥がしても良い? 新しいの書くから」
 佐久穂は、有無を言わさず屋敷中のお札を剥がさせ回収した。
 その後に、宣言通り新しい御札を書いて品子の部屋以外全てに貼る。
「さてと、護衛は男子諸君に任せて寝ちゃいましょう。私は、する事があるのでお庭で待機してますね」
「えー、怖いよっ!! 一緒にいて」
 ガシッと浴衣を掴まれた佐久穂は、体のバランスを崩して転倒する。
「(じみに痛い…)ヒトガタが守ってくれます。荒業ですが、邪魅の正体を暴きます」
「あいつしか居ないじゃない!!」
「……一体とは限りません。私と一緒に居れば、危険度が高くなりますよ。良いんですか?」
「……」
 やっと押し黙った面々に、佐久穂はホッと息を吐く。

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