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十壱夜 [ 87/218 ]


 玉章が、リクオと自分は似ていると称した。それが開幕の合図となる。


 玉章は、自分の部下ですら殺す奴だ。恐らくそれらを取り込んでいるのだろう。
 彼の持つ一振りの刀―魔王の小槌―。あれは、危険だ。佐久穂は、どうするべきかと考える。
 大将同士の戦いも、リクオの優勢かと思われたが夜雀の術に嵌り『畏れ』が使えない状態でいる。
 苦戦をしいられている彼と氷麗(つらら)を助けてやるのは骨が折れる。
 治癒で消耗した力を戻すには、時間が足りなかった。
 夜雀の技を氷麗(つらら)が解いたのを確認すると、佐久穂は自分の領分は魔王の小槌を防ぐ事だと言い聞かせ、敵の間を掻い潜りリクオに最も近い場所へと移動した。
 劣勢を悟った玉章は、横に垂れる白髪を掴み、こう言った。
「どいつも、こいつも役に立たないやつらだね。…ま、関係ないけどさ。所詮使われる存在なのだから……お前達、その身を捧げろ!」
 近くにいた自分の部下を殺し始めた玉章に、佐久穂の妖刀村正が振り下ろされる。
「ド田舎の狸が、いい気になるなよ。人の庭を土足で荒らしたんだ。きっちり落とし前つけさせてもらう」
 太刀を握り直し睨みつける佐久穂に、玉章は甲高い声で笑った。
「ひゃはははははっ、威勢のいいガキが一番嫌いなんだ。邪魔だよ」
 玉章に殺されていった妖の恨み辛みが、刀から聞こえてくる。
「奇遇ね。私も仲間を簡単に裏切るような奴は大嫌い。リクオとあんたじゃ格が違うわ。一緒にしないで!」
 振り下ろされた刀を受け流し、圧し掛かる声に吐き気がした。恐らく一度しか技は出せない。
「死にたくない奴は下がれ! 氷麗(つらら)、リクオを後ろに下げろ」
 出来る限り大きな声で叫ぶ。佐久穂の言葉を聞いた妖怪は、一斉に距離を取る。背中にあったリクオも、有無を言わさず後ろへと下げられ気配が遠のいたのを確認した佐久穂は、一歩前に左足を出し中腰になり持っていた太刀を片手に持ち替える。
「妖刀村正―飛天幻影弐式 黄昏の陣―」
 一つだった刀が二つに増え、剣舞のように流れる動きで玉章を切り刻んでいく。
 佐久穂と玉章の周囲には、大きな火柱が上がり二人を包み込んだ。
「……この炎はね、業が深ければ深いほど激しく燃えるのよ。その刀を捨てて投降しなさい。私に勝てない限り、確実に死ぬわよ」
 刀を玉章の首に当て投降を迫ったが、相手は素直に投降するような奴ではなかった。
 一瞬の隙をつかれ佐久穂の鳩尾に蹴りが入る。体制を崩した彼女を下からすくい上げるように斜めに切り裂いた。
 ザシュッと音を立て肌が切れ、大量の血が玉章の身体を濡らした。囲っていた炎が揺らぎ消えていく。
「佐久穂っ!!」
 後ろで非難していたリクオの声に、佐久穂はピクリと身体を動かした。
「ちょっとは、人間のくせにやるじゃないか。だが、これで終いだ」
 振り上げられた魔王の小槌が、佐久穂目掛けて振り下ろされる。
 誰もが佐久穂の絶命を考えたが、その切っ先が佐久穂に届く前にリクオが刀を叩き落した。
「人の女に手ぇ出してんじゃねー!」
 ギラリと玉章を睨み、佐久穂の身体を守るように抱えた。ボソボソと聞こえる佐久穂の声に、リクオは意識がある事にホッと息を吐いた。
「玉章……それが、てめぇの百鬼夜行ってのかい」
「そうだよ。リクオ君、素敵だろう。僕の百鬼夜行は……」
「魑魅魍魎の主とは、骸を背負う輩のことを言うんじゃねーんだよ」
 そう吐き捨てたリクオに、玉章が纏う空気が変わった。
「女を守りながら殺されるほど、僕は弱くはないよ」
 玉章が、殺してきた妖怪の群れが白い髪を伝い魔王の小槌を使い百鬼を纏う化物へと変えた。
 その力は壮大で、リクオはいとも簡単になぎ払われた。
 佐久穂を庇いながら地面へと叩きつけられたリクオだったが、駆けつけてきた氷麗(つらら)に佐久穂を託した。
「若ッ! 玉章、俺達が相手だ!!」
 首なしが前へ飛び出ようとするのを、リクオは黙っていなかった。
「待て、こいつは俺がやる」
「若!!」
 氷麗(つらら)の静止を彼は、至極落ち着いた声で言い放った。
「大将は……身体を張ってこそだろ」
 そう言うと、リクオは玉章への元へと戻り切りかかる。
 何度も、何度も弾かれては果敢にも向かっていくが、その圧倒的な力の差は歴然だ。
「空が白ばんできたぞ……リクオ」
 人の姿に戻りつつあるリクオに、玉章は言った。
「恨むなら自分の血を恨むんだな」
「リクオ様からはなれろぉぉぉおお!!」
 首なしの怒号を合図に、青田坊や黒田坊らが一斉に玉章に飛び掛った。
 しかし、彼は一振りで彼らを薙ぎ払う。
「何故、こんな弱い奴についていく…?」
 心底理解できないとばかりに問う玉章に答えたのは、傷を負わされた佐久穂だった。
「あんたは、リクオより劣る。あんたのどこに畏れを感じろってのよ。刀におどらされて……救いようのない馬鹿じゃない」 
「死に底無いが、生意気な口を叩くんじゃねぇ!!」
「その死に底無いにすら、あんたは勝てない。鳴け妖刀村正―奥義・血桜乱舞―!!」
 氷麗(つらら)の力を借りヨロヨロと立ち上がる。氷麗(つらら)の手から離れ、佐久穂はふらつく身体でリクオの隣に立った。
 玉章の着物に着いていた血が、空気中に浮かび桜の花びらを象り鋭い刃となり一斉に攻撃を開始する。
「うわぁぁぁああああ!!!!」
「その桜はね、お前が殺したもの達を開放するものなの。傷が増えれば増えるほど、開放される魂が増える。……リクオ、この馬鹿に本当の畏れが何なのか教えてやったら?」
 グラリと身体が揺れ前のめりになった佐久穂を、黒田坊が支えてくれた。
「佐久穂姫様、無茶をなさっては傷に触ります」
 佐久穂の身体を抱き上げると、リクオの邪魔にならぬよう後方へと下げられる。
 リクオは、ムッと顔を一瞬したが玉章に視線を戻し彼なりの畏れを語った。
「ボクが、おじーちゃんに感じた気持ちは怖さとは違う。強くて…かっこよくて、でもどこか憎めない。だから、みんなついていく。“あこがれ”なんだよ。畏れってのは……」
 口調が、目つきが変わった。完全に昼のリクオになったわけじゃない。今の彼は、昼と夜が混じりあっている。
「そんな…じいちゃんが作った奴良組を。烏天狗が居て…牛鬼が…みんながいるこの組を守りたい」
「………」
「僕は気付いた! それが、百鬼夜行を背負うという事だ!! 仲間を疎かにするやつの恐れなんて、誰も…ついてきゃしねーんだよっ」
「黙れ」
 リクオの言葉に、玉章が彼の胴を切った。
「あ?」
 しかし、リクオの姿は確かにあるのに切れた形跡がどこにもない。
「鏡花水月」
 見たことも無いリクオの技に、見惚れたのは見方だけでなく敵も同じのようだ。
 この分だと決着は、もう着いただろう。
 出血し過ぎた佐久穂は、もう限界とばかりに意識を手放したのだった。

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