小説 | ナノ
幾つ月日が流れてもA [ 73/218 ]
食事が終わり、食器を片付けようとする私のところに妖怪がワラワラと群がってくる。全てが菓子を強請りに来るのだ。
菓子菓子菓子菓子…いい加減にしてくれと言いたい。やることがいっぱいあるのに、その上菓子まで造らねばならんとは恐ろしい日だ。
げっそりとする私に、ドンッと体当たりで珱が引っ付いてくる。
「珱、何か持っている時は抱きついてこないで。危ないから」
「うっ、姉様見るとこう抱きつきたくなるんですもの」
ボソボソと言い訳をする珱に、私は仕方ない子だと頭を撫でていると羨ましそうにそれを見ている苔姫がいた。
「苔姫、どうしたの?」
「あ、あの……一緒にお菓子作りしたいです」
頬を赤く染めながらモジモジと手を握ったり開いたりする苔姫の可愛いお強請りに思わず抱きしめてしまった。
「か、可愛いーっ!! ありがとう、苔姫。とっても助かるわ」
「い、いえ…そんな…」
頬に手を当て恥らう彼女を微笑ましく見ていたら、背中にへばりついてた珱まで手伝うと言い出した。
「私も手伝います!」
「あら、面白そうなことしてるじゃない。私も参加するわ」
フフフッと楽しげに笑う雪羅に、宮子姫と貞姫も参加して急遽お菓子教室へと発展した。
苔姫にライバル心を燃やしているなど露知らず、私はまあ良いかと承諾したのが間違いだった。
私が来るまでは外食か出前、宿の料理で自炊をしたことがない雪羅と、包丁を握ったことが無い姫達の指導は困難を極めた。
台所に篭ること二時間半、漸くまともなものが仕上がり私は脱力した。
これほどまでに精神・忍耐・体力を要する菓子って何だと思わず自問自答したくなった。
出来たのは、大鍋に入った大量の善哉。味は、うん……ギリギリ及第点かな。
「庭に持っていって、皆でお餅を焼いて食べましょう」
準備してきますと出て行った姫達を見送り、私は別に作った小鍋に入った善哉を取出し木箱へ移し雪羅に熱を冷ましてくれるように頼んだ。
「これ何?」
「羊羹の元です」
元は善哉なのだが、栗が入っていて少し豪華になっている。
「ふぅん、私も食べれるの?」
「ええ、ですので冷まして貰えませんか」
雪羅は、食べられるならと羊羹を冷やしていく。ある程度固まったところで、彼女の力で作った溶けない氷で作った冷蔵庫なるものの中にしまうとい雪羅を伴って皆のところへと向かった。
既に善哉は振舞われていて、皆箸を付けている。しかし、その顔はあまり宜しくない。
「……なあ、これ本当に藍姫が作ったのか?」
渋い顔をして聞いてくる豆腐小僧に、私は苦笑を浮かべる。
「私と雪羅さんと姫様方の合作ですよ」
「やっぱり……」
ずるずると顔を顰めながら善哉を食べる豆腐小僧に、雪羅の眉がピクンッと上がる。
「やっぱり何よ」
冷気が漂っている。さ、寒い。ススッと彼女から離れようとした私だったが、ぬらりひょんのデリカシーのない一言で逃げられなかった。
「不味い。何じゃ、この糞甘ったるい物体は。どうせ、藍に作り方を教わっておめーらが作ったんだろう」
ハッキリ言ったよ、この馬鹿っ!! そこに居た誰もがそう思ったに違いない。
「ひ、酷いですーっ!!」
「誰もあんたに食わせるために作ったんじゃないわよ!!」
「お姉様は、美味しいって言って下さったものを……。やっぱりこんな気配りの出来ない駄目男は死ねば良いのに!」
シクシクと泣き出す姫達を見て、流石にぬらりひょんは冷や汗を掻く。
「ぬらりひょん、言って良いことと悪いことがあるわ。女の子を泣かせてる良いと思っているのかしら?」
「ヒッ……藍、ま…待て。話せば分かる」
怯えたように私を見るぬらりひょん。それもそのはず、手には祢々切丸(影打ち)が握られていた。
「例えぬらりひょんでも、女の子を泣かせる男は許しません」
「藍様ぁあああ! そ、それだけはご勘弁をぉぉおお」
ヒシッと縋りつくカラス天狗に、
「大丈夫、半殺しにする程度で留めますから」
とニッコリと笑みを浮かべ、ぬらりひょんをお仕置きしたのだった。
ぬらりひょんのために作った羊羹は、彼の口に入ることはなく、結果珱姫たちのご機嫌取りに使用された。
そして、400年後―――。
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