小説 | ナノ

act6 [ 54/218 ]


 気絶した藍を根城にしている島原の一角にある屋敷へ連れ帰ったら、出迎えた烏天狗が説教をかましてきた。
「総大将、どこへ行ってたんですか!! あれほど、行き先を伝えてから出かけるようにと……」
「うるさい烏天狗。藍が起きるじゃねーか」
 気絶している藍を抱えなおし、烏天狗に注意を促すと彼は顔面蒼白になり頭を抱えている。
「どこから拾ってきたんですか!! 返して来て下さい! 雪麗が知れば……」
 ガタガタと震える烏天狗に、ぬらりひょんは呆れた顔で彼を見て言った。
「拾ったんじゃねぇ。攫ってきたんじゃ」
「なお悪いわぁあああ! そもそも人間の女子じゃありませんか。どうしてそのような事を……」
「こやつが、あんまりにも自分ってもんを知らんからのぉ。荒治療じゃ」
「は?」
 訳が分からないと頭に疑問符を浮かべる烏天狗をほったらかし、彼女を屋敷の中へと連れ込んだ。
 自分の手で着飾るのも良いが、ここは女の雪麗に任せ変貌を楽しむ方が何倍も楽しそうだ。
「雪女、いねぇのか?」
 キョロキョロと雪麗を探していると、ぬらりひょんに呼ばれた彼女は嬉しそうに部屋から出てきた。
 しかし、藍の姿を目に留めると鬼のような形相で詰め寄ってくる。
「なんなのよ! その女はっ!!」
「ワシの客人じゃ。こやつを着飾ってやってくれ。ワシは、広間で待っとる」
 雪麗の返事など待たずに彼女に藍を押付ける。
「ふざけんじゃないわよ! 総大将の馬鹿ぁあああ!!」
 雪麗の怒声が聞こえてくるが、ぬらりひょんは知らん振りして宣言通り広間へと行ってしまった。


 一方、気絶した藍を押付けられた雪麗は腕の中で眠る彼女をどうしてくれようかと嫉妬でイライラしていた。
 本当なら氷付けにして抹殺したいのだが、ぬらりひょんの客となればそうはいかない。
「何だって、私が他の女を着飾らなきゃならないわけ。本当に信じられない」
 ブチブチ文句を垂れながらも、藍の身体を引き摺りながら与えられた自室へと向かった。
 スヤスヤと眠る彼女の顔には、涙の痕が見られる。一体、ぬらりひょんは何をしたんだ。
「ちょっと、いつまで寝てるつもり。さっさと起きなさい。さもなくば、氷付けにして永眠させるわよ」
 ペチペチと彼女の頬を叩き物騒なことを宣う雪麗に、藍は瞼を震わせ目をパチパチと開き辺りを見渡している。
「……どちら様でしょうか?」
「どちら様もこちら様もないわよ。総大将が、あんたを着飾れって私に押付けたのよ。命令じゃなきゃ、今頃氷付けにしているところよ」
 嫉妬の目で藍を睨みつけても、彼女は状況を把握していないのか首を傾げている。
「総大将?」
「奴良組の頭領であるぬらりひょん様のことよ。貴女、そんなことも知らないの」
「……夜な夜な京の町を徘徊しては妖狩を行っている奴良組の大将? あの方が?」
 信じられないといった表情で、目を大きく見開く藍に雪麗は苛立つ。
「他の妖にはない多くの畏れを持つ別格中の別格。いずれは、魑魅魍魎の主になるお方よ」
「人の家に上がりこんでご飯を集る妖怪だと思ってました。ああ、なるほど……。彼が、自分の事を強いと言った意味が分かりました」
 一人で勝手に納得している藍に雪麗は剣呑な目で彼女を睨む。彼の畏れを使えば朝飯前の事だが、それがどう強いと納得できるのか。
 自分でさえ、この目でその強さを見なければ納得できなかったものを人間の小娘は意図も簡単に受け入れている。
「どういう意味?」
「え?」
「総大将が、強いって分かったって言ったでしょう。その目で戦っているところを見たこともない貴女が、彼が強いと納得するのは何故かって聞いてるのよ」
 そこまで言って、彼女は嗚呼と合点いったのかニッコリと笑うと雪麗にも分かるように説明をした。
「彼の能力は、相手に認識されない。または、あたかも最初からそこに居る存在である。そう言った類の力でしょう? つまり、敵はぬらりひょんの存在を気付く前にサクッと殺されてしまう事だって出来る。使い方次第では恐ろしい能力ですよね」
「……あんた何者なの?」
「貴女もぬらりひょんと同じことを聞くんですね。極々普通の女ですよ。それにして、いきなり人を連れ去る方が妖の大将だなんて信じられません」
 米神に青筋を浮かべながら怒気を孕んだ声で静かに怒る様は、妖怪である雪麗さえも怖いと思った。
「悪かったわね、うちの大将が迷惑を掛けて」
 嫉妬も混じった謝罪に、彼女はゆるりと首を横に振りニッコリと笑みを浮かべ恐ろしいことを宣った。
「貴女が悪いんじゃないわ。ぬらりひょんが、悪いのよ。後で、キッチリ説教するつもりでいるもの。気にしないで」
 目が笑っていない。彼女は、本気で言っている。
「そ、そう。するなら、総大将だけにしてね。絶対よ?」
「念押ししなくても、貴女にはしないわ」
 そう言いきる彼女だったが、これから雪麗の手で着飾られる運命になるのだと知っていたのなら、今の言葉は出てこなかっただろう。

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