小説 | ナノ

君と共に歩む時間A [ 45/218 ]


 年が明けるのはあっという間で、年が明けたと同時に無礼講だとただの飲み会と化した。
 藍は、適当に酒を舐めつつ明日の祝賀会の用意があるからと早々に切り上げる。勿論、大広間を片付けている珱姫とぬらりひょんを回収してだ。
 そこそこ綺麗になっていたので、約束のキスはしておく。珱姫はおでこに。ぬらりひょんは頬にだ。
 記憶があるか怪しいが、約束は果たしたのだから文句を言われる筋合いもない。
「さて、寝るか」
 妖怪達の宴会は、まだ続いているようだが明日の事を考えれば寝るに越したことない。
 明日、どれだけの妖怪が二日酔いで潰れずにいるのか楽しみだ。
 ぬらりひょんの隣に潜り込んだ藍は、モゾモゾと寝心地の良い場所を探した後、深い眠りについた。


 憎らしいぐらいの晴天で洗濯日和だとふと思ってしまう藍は、自分があまりに所帯染みていることに笑ってしまった。
 湯浴みするかと身体を起すと、ガシッと腕を捕まれ褥に逆戻りさせられる。
「ぬらりひょん重い」
 ノシッと圧し掛かるぬらりひょんに、藍は半眼になりながら彼を睨みつける。
「どこへ行く気じゃ?」
「湯浴みしに行くんだよ。昨日風呂入ってねーし、酒臭いしで気持わりぃ」
「ワシも行く!」
 ぬらりひょんの分かり易い反応に、藍は白い目で彼を見上げて言った。
「お前はくんな」
「夫婦なんじゃから、一緒に風呂入るくらい良いじゃねぇか」
「風呂入るだけですまねーだろうが」
 やることはやっている仲だ。今更恥ずかしがるなと云う無かれ。団体生活を送っていると、どこで誰が見ているか分からないのだ。
 色事につき合わされ恥ずかしい思いを何度したか分かりゃしない。
「姫初めを風呂場ですんのも良いもんじゃろう」
「俺は、禊してから初詣に行くんだ。桃色妄想は、てめぇの頭の中でしとけ!」
 ガンッとぬらりひょんの鳩尾に膝を入れ、隙が出来たのを見逃すことなく着替えを持って風呂場へと向かった。
「全く、新年早々エロエロ魂全開すんなよな。こっちの身にもなれってんだ」
 ブツブツと文句を零しながら湯浴みを堪能した藍だったが、もしこの時ぬらりひょんの要求を受止めていたらあんなことにはならなかったのかもしれない。


 湯浴みを終えた藍は、大広間と宴会場になった客間の掃除に掛かる。そこで寝ていた妖怪達を叩き起こしてだ。
 夜には祝賀会があるわけで、料理の準備は出来ているとしても、荒れた広間や客間で新年を迎えたくは無い。
 襷掛けをして掃除に勤しむこと二刻半。洗物から襖の張替えまでどんだけ汚せば気が済むんだと藍は溜息を吐きたくなった。
「もう一回風呂入って、それから参拝に行くか……」
 埃で汚れた着物を軽く叩き、ハァと溜息を吐いているとぬらりひょんがヒョッコリと顔を出した。
「なんじゃ、掃除しとったのか」
「おう、掃除しとかなきゃ祝賀会も開けねーだろう。一風呂浴びて初詣に行くが、お前はどうする?」
「そうじゃな。一緒に行くか」
「そっか、他の連中はまだ眠っているようだし。久々に外で食おうぜ」
「分かった」
「絶対に風呂覗くなよ」
 ぬらりひょんに釘を刺し、藍はいそいそと着替えを取りに自室へ戻っていった。
「覗くよりもっと楽しめる方法があるからのぉ……。鳩尾の礼は、たっぷりさせて貰うぞ」
 藍が居なくなった広間で、ぬらりひょんはクツクツと人の悪い笑みを浮かべる。
「さて、ワシも着替えるとするかのぉ」
 初詣に興味はないが、藍と一緒に出かけられる機会は少ないので良い機会と言えるだろう。
 陰陽師であることに拘りを持っているのか、神仏への信仰心は厚い。
 天敵である陰陽師に惚れて娶り契りを交わすとは、あの時の自分では考えられなかったとぬらりひょんは一人ごちる。
 ぬらりひょんの為に縫ってくれた紋付羽織袴を手に取り、自然と笑みが浮かぶ。きちんと畏の文字も入っている。芸が細かい女だ。
 早速袖を通すと、どこもかしこもピッタリでぬらりひょんの為だけに作られたかのように一寸の狂いも無く身体に合っている。
「お、着てくれたんだな。似合ってる」
 藍も正月用の着物に着替えたのか、とても似合っている。いつもと異なり薄らと化粧も施して更に美しさを引き立てていた。
「惚れ直したぞ」
「ぬらりひょんて本当垂らしだよなー」
 素直に感想を述べると、藍は薄らと頬を赤く染めて憎まれ口を叩く。
「藍が、ワシに垂らされてくれるなら本望だ」
「馬鹿っじゃねーの」
 顔を赤く染め先を歩く藍に、ぬらりひょんはクツクツと笑みを浮かべる。本当に飽きない女である。
「一人で行くんじゃねーよ」
 藍の手を取り指を絡めて、ぬらりひょんは近くの神社へと足を運んだ。

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