小説 | ナノ

君と共に歩む時間B [ 46/218 ]


 名のある神社へ参拝する気などない藍は、近くの小さな神社に来ていた。
「へぇ〜、こんなところにあったんじゃな……」
「良い場所だろう」
 参拝客は、それなりにいて賑やかしいが人混みになるほどではない。
 清廉とした空気に、ぬらりひょんは確かにと頷いた。
 妖にとって強い神気は毒になりうるが、この神社に祭られている神はどうやら寛大のようでぬらりひょんさえも受け入れている。
「江戸に来た当初に見つけてな。時々来てるんだ。京都の神様は、妖に容赦情けがないけどこっちは違うもんだな」
「そりゃそうじゃ。人も妖も共存しとるからのぉ。ま、人に仇なす妖はワシが成敗してやるから安心しろ」
「魑魅魍魎の主殿が、そう言ってくれると安心だ」
 冗談交じりのぬらりひょんの言葉に、藍もクツクツと笑みを浮かべる。
「じゃあ、お参りしようぜ」
 手水舎で身を清め、濡れた口元と手を手拭で拭く。ちらりとぬらりひょんを見ると、彼も藍の真似をするように同じ動作をしていたのだが、下手糞すぎてビチャビチャと袴の裾を濡らしている。
「たく、あんたはでかい子供か」
 グイグイと口元を手拭で拭い、そのまま手を拭いてやる。
「……手が冷たい」
「そりゃ、冬だしな」
 冷水なんだから仕方が無い。温石を持ってくれば良かったと思ったが、出て来てしまった以上は仕方が無い。
「参拝が終ったら、お神酒貰って身体を温めようぜ」
「それ以外の方法で温めて貰うからいい」
 ボソッと呟かれた言葉が聞き取れず首を傾げるも、ぬらりひょんは澄ました顔で何も言わないため話を聞きそびれてしまった。
 順番を待ち参拝者に紛れて藍とぬらりひょんも参拝を済ませる。一年の感謝と豊富を神様に報告するのだ。
「……(今年も一年皆健康に過ごせますように)」
「……(今年こそ藍に女の子が出来ますように)」
 思いっきり欲塗れの願望を抱くぬらりひょんの考えなど知るよしもなく、藍は終ったとばかりに顔を上げる。熱心に祈るぬらりひょんを見て首を傾げた。
 暫く待ってみるが、祈りを終える気配が無いので声を掛けてみる。
「ぬらりひょん、もう良いか?」
「ん? ああ、もうちょっと……」
「後がつかえてんだよ。さっさと退け」
 参拝者の心を代弁した藍の言葉に、ぬらりひょんは少々不満げな顔をしたが渋々その場から移動した。
 参拝を済ませた藍は、ぬらりひょんを伴いお神酒を振舞っている場所へと立ち寄っていた。
「どうぞ〜」
 白い盃に注がれた芳醇な酒に藍はホッコリと笑みを浮かべ、それを美味しそうに飲んでいた。
「んー、やっぱお神酒は格別だよなぁ」
「お神酒っつたら、松尾大社が一番美味かった」
「そりゃ酒の神様を奉ってんだ。不味かったら罰が当るっての。つーか、お前大丈夫なのか?」
「何が?」
「お神酒飲んで」
 普通の妖ならお神酒はご法度だ。神に献上された酒は、邪や魔を祓い清める力がある。ぬらりひょんは妖だから、その対象になりうるのだが当の本人は至ってピンピンしているのがおかしな話だ。
「飲んでおかしかったら、今この場におらんじゃろう」
「ま、そうだよな……。お前って、本当に変な存在だよな」
 流石に神社で妖とは言えなかったので、言葉を濁したものの相手にはしっかり伝わっているようだ。
「失礼じゃぞ藍」
「ははは、ごめんごめん」
「まあ、良いが……それより寒くねぇか?」
「ん? ああ、そうだな。帰るか」
 参拝も終わったことだし神社に居る用はないなと藍が言うと、ぬらりひょんの腕が藍の腰に回った。
「家で暖を取るのも悪かぁねぇが……ワシはおぬしで暖を取りたいのぉ」
 キュッと抱きしめられ、そのまま木陰に連れ込まれる。
「ちょっ、こんなところで発情すんな」
 ジタバタと暴れてみせるが、そこは女と男の力の差が出てしまう。ガッチリと掴まれた腕は解くことが出来ない。
「鳩尾の礼もせねばならんしのぉ。温めてくれるじゃろう?」
 ぬらりひょんは、帯はそのままに襟元に手を掛けグイッと左右に引っ張った。
 大きく肌蹴た胸元を慌てて隠そうとしたが、ぬらりひょんの手がそれを阻む。
「怒るぞっ!」
「もう、怒ってるじゃろうが。ま、声を出して人に見られて恥ずかしい思いをするのは藍じゃ。ワシは、誰に見られようが気にしねぇ」
 クツクツと笑いながらとんでもない事を宣うぬらりひょんに、藍は舌打ちを一つし抵抗を止めた。

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