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愛情確認@ [ 40/218 ]


 住居が江戸に移り暮らすようになった藍だが、頭の痛い悩みがあった。
 ぬらりひょんとの婚姻に反対する者達の説得とぬらりひょんの性欲である。
 説得については、ぬらりひょんがするという約束だったが相手をおちょくる奴の性格が災いしてか上手く進んだ試しは無い。(主に珱姫)
 牛鬼を含む一部の幹部からは認められているようだが、全ての下僕を説得するには時間が掛かると言えるだろう。
 祝言なんていつでも挙げられるし、気長に待つつもりではいるのだが。
 流産した後という事もあり、鴆に診て貰っている。生理が来るまでは性交禁止と言い渡されていた。
 なのに、処構わず押し倒してくるぬらりひょんに、藍は疲れ切っていた。
 手酷く拒絶したら、据わった目で『生理が来たら襲う』宣言された挙句、『そう言えば、全快したら好きにして良いって言っておったな。暫く起き上がれんから覚悟せいよ』と宣った。
 この時代に冷蔵庫や電子レンジなるものなどないので、食事の作り置きなどできるわけもなく、彼の言う暫くがどれくらいになるのか考えるだけでも恐ろしい。
 我慢を強いているのも分かっているから強く出れないところもあり、約束を引き合いに出されたら文句も言えない。
 この時ばかりは、今更ながらに自分の発言を撤回したいと思った藍だった。


 流産して二ヶ月と少しして、生理が来た。それは、身体が赤ちゃんを作れるようになったというサインで喜ばしいことだ。
 鴆から貰った滋養強壮の薬がなければ、もっと遅かったかもしれない。
 生理痛に悩まされること三日間。出血が完全に止まるまでは手が出せないようにと、珱姫と雪麗を傍に置いた。
 日が増すことに、超が頭につくほど不機嫌になるぬらりひょんに藍は冷や汗を掻く。
 お預けを食らって結構経つのだ。絶対がっつかれて屍になるのは目に見えている。
 奴良組の食事事情を考えると、結構死活問題だ。珱姫との乱闘騒ぎで財政が圧迫している上に、少ない金額でやりくりして食事だけは何とか三食出していたが、料理の腕がサッパリな面々に誰が飯を食わせるというのだ。
「……最終手段は、苔姫に泣いて貰うしかないか」
 彼女の涙は真珠に変わる。高値で売れるだろうが、あまり市場に流通させたくない。流通し過ぎたら価値が無くなるからだ。
 取敢えず打つ手は打っておくにこした事は無い。
 藍を独占できる優越からか機嫌のいい珱姫に話を切り出した。回りくどい言い方は一切せず単刀直入にだ。
「月のものが終ったら、一週間ぬらりひょんと過ごす。その間、雪麗と協力して奴良組の面倒を見てやって欲しい」
 物凄く嫌そうな顔をする珱姫の反応に、藍は大きな溜息を吐いた。
「あいつをそう嫌わないでくれ。俺が唯一認めた男なんだ。手を出したいのをずっと我慢してたんだ。ご褒美も必要だろう?」
「藍殿は、妖様に甘過ぎですっ! 婚前に性交するなんて破廉恥です!! 絶対にダメです」
 キッと睨みつける珱姫の反応は予測済みで、藍はわざとらしく悲しそうに眉を顰めて言った。
「……やっと子供が作れる身体にまで回復したんだ。生んでやれなかった俺の子供に約束してんだ。次は、必ず生んでやるって」
「……藍殿」
「俺の子供は、珱姫と一緒に育てたいって常々思っていたんだが……ぬらりひょんとの結婚も認められてないし、あの子との約束も反語になるのかなぁ」
 チラリと珱姫を見ると、パァァアと嬉しそうな表情を浮かべ藍の手をキュッと握り締めて言った。
「私も藍殿の子供を一緒に育てたいです!! 婚前に藍殿を孕ませたなんて事になれば、嗚呼……考えただけで恐ろしい。相手が妖様というのが不本意且つ気に食わないですが、私と藍殿の子を成すためです。この際、目を瞑ります。妖怪共は、私にお任せ下さい。何が何でも結婚を認めさせます」
 珱姫は、ぬらりひょんを種馬としか思ってないのだろう。子供の教育を任せると言った手前、少々……否かなり不安だ。ぬらりひょんみたく誑しになって欲しくはないが、珱姫のような猪突猛進な性格にもなって欲しくはないのも事実だ。
 息子の教育は牛鬼に任せようと本人の許可無く勝手に決めた藍は、話を本題へと戻す。
「一週間、奴良組を頼むな」
「はい、任せ下さい!」
 雪麗がいるから大丈夫かと高を括っていたら、それが大きな間違いである事が分かるのは一週間後の事である。


 生理が終った翌日、藍はぬらりひょんの部屋を訪ねた。
「鴆のところに行く。支度しろ」
「は?」
「定期健診に行く。許可が下りたら一週間やりたい放題」
 そこまで言って、やっと意味が分かったのかバタバタと慌しく支度を始めるぬらりひょんに藍は苦笑を浮かべた。
 一週間分の着物を風呂敷に包み、久しぶりに見た彼の笑顔に現金だと思ったのはここだけの話。
「珱姫、雪麗…後のことは頼む。烏天狗、一週間は何があっても自分等で何とかしろ。邪魔はするなよ、絶対に!」
 邪魔されようものなら、そのとばっちりを一身に受けるのは藍となる。
 ぬらりひょんの八つ当たりの矛先が他に向かえば問題ないのだろうが、八つ当たりだけで済むとは思えないのは短い付き合いの中でよく分かっている。
 鬼気迫る藍の言葉に烏天狗は、ブンブンッと首が千切れるんじゃないかと思うくらい思いっきり頭を立てに振っている。
 身に覚えがあるのか、彼も相当な苦労人だ。
「じゃあ、行って来る。俺らが居ない間、くれぐれも問題を起すなよ。くれぐれもだ」
 二回も“くれぐれも”と念押しし、藍はぬらりひょんの手を取り朧車に乗って薬鴆堂へと出発したのだった。

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