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四百年の時を超えてC [ 39/218 ]


 着せ替え人形と化し写真をバシバシ取られた藍の精神疲労は頂点に達し、普段なら絶対しないであろう行動に出た。
 トイレと称し洗面台にあったクレンジングオイルと洗顔石鹸をパチると、逃亡防止のためについて来た氷麗(つらら)を手刀で昏倒させ、元凶である鏡がある蔵へ戻り付喪神を脅した。
「今すぐ元の世界へ戻せ! 戻さないってんなら鏡を割るぞこの野郎!!」
「そんな事したら、お主も戻れなくなるだろうに」
「使いたくないが、伝があるからどうとでもなる」
 花開院本家に行けば何らかの方法があるはずだ。禁術だから、厳重に保管されている書庫を襲えば見つかる確立は高いだろう。
「……」
 究極の選択に悩む付喪神に対して、藍はとっておきの飴を用意した。
「もし、このまま大人しく俺のいう事を聞いて戻すってんなら滅さないし、奴良組の一員にしてやる」
 藍自身にそんな権限はないが、ぬらりひょんを脅せばどうとでもなる事だ。
 寧ろ、原因はぬらりひょんにあるわけだから了承しなければ実力行使に出れば良い。
「……分かった。約束は守れよ」
「女に二言はない」
 やっと帰れる!! そう喜んだ藍だったが、鏡が光り出し身体がふわりと浮かんだ瞬間、今着ている格好に気付き慌てた。
 着物ではなく、胸元が大きく開いたAラインのバルーンワンピースなのだ。
 400年前に、そんなものは存在しない。それを持ち込んだ後で何かが変わると困る。
「鏡っ、ちょっとたんまぁぁああ」
 急に止まることなど出来ず、気持ち悪い浮遊感に意識を飛ばされないようにするのが精一杯だった。
 藍は、鏡を抱きしめて倒れこむように蔵の床で寝そべった。
 一瞬にして、猛烈な寒さを感じ400年前の世界に戻ってきたのを実感した。
「気持ちわりぃ……」
 オエッと込上げる吐き気と戦いながらも、ホッと安堵の息を吐いた。
「おい、鏡。400年前に戻ってるってことは、あっちの俺も戻ってるんだよな?」
「勿論だ。世界に同じ魂を持つ者が二人と存在してはならないからな。約束通り、吾を奴良組の一員にしてくれるんだろうな」
「……約束だからな。取敢えず、ここから出るのが先決だな。寒いし。このままだと凍える」
 ぐるぐると回る頭を軽く振り、フラフラと立ち上がり蔵から出る。
 誰にも遭遇しない事を祈りながら自室へと向かったが、
「藍様、なんて破廉恥な格好をなさってるんですか! そのような薄い生地でフラフラと歩いてはなりませんっ」
 途中で会った烏天狗の大きな声に奴良組の面々がひと目藍の姿を見ようとワラワラと出てくる始末。
 この上なく綺麗な笑みを浮かべたぬらりひょんと目が会い、思わずバッと反らしてしまった。
 相当怒っている。理由は、今の自分の格好を下僕達に見られたからというのが大半だろう。
「……珱姫と雪麗と共に着物を選んでたんじゃなかったのか」
 ぬらりひょんの言葉で、この時代に来た自分もまた着せ替え人形にされ逃亡したのだと分かる。
「それは、400年先の未来から来た俺の事だ。俺じゃない!」
「ほぉ、じゃあ今のお前はこの時代の藍って言うのかい?」
「当たり前だろう。そもそも、貴様がコイツを蔵に閉じ込めておいたせいで付喪神になって未来へ飛ばされたあげく、雪麗の娘や息子の嫁に無理矢理着せられたもんだ。こいつも奴良組の一員にする条件で戻って来れたんだぞ」
「経緯は分かったが、そんな格好をワシ以外の奴に見せるな! 勿体ないだろうがっ」
 この服を購入したのは、400年後のぬらりひょんだと言うのに全く持って理不尽だ。
「うるさいっ! 俺は、寒いんだよ。この服だって、お前のエロい趣味満載で買ったやつだろうが! 俺に当たるんじゃねーよ」
 クシュンッとくしゃみを一つし、腕を擦る藍にぬらりひょんがバサリと自分が着ていた羽織を頭から被せた。
「お前の身体を見ていいのも、触って良いのもワシだけじゃ! 散れ」
 ふわっと身体が浮かび俵担ぎされた藍は、手にしていた鏡を落してしまったが、烏天狗の頭に当り割れることはなかったので安心した。
「ちょっ、どこ行く気だ」
「夫婦の時間じゃろう」
 邪魔する奴は殺すとばかりに、周りを畏れで威嚇し藍を連れ去ろうとする。
 化粧を施された藍に惚れ直し欲情したぬらりひょんを止めることなど到底無理で、藍は美味しく頂かれる事となる。
 口では言えないことを散々された挙句、翌朝まで放して貰えず酷い鈍痛に苦しむ羽目になったのは言うまでもない。
 藍の姿絵が妖怪達の間で飛ぶように売れ、400年後の未来では同じように写真が飛ぶように売れ、その収益が奴良組を潤す事となるのはもう少し後の出来事である。
end

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