小説 | ナノ

四百年の時を超えてB [ 38/218 ]


 廊下を小走りで走っていたら、上が茶色で下が黒というモカコーヒーのようなプリン頭のメガネ少年を筆頭に子供がずらずらと反対側から歩いてきた。
 藍の姿を見つけたメガネ少年の顔がビシッと固まったかと思うと、いきなり藍の方へ駆け寄ったかと思うと彼女の腕を掴み友達を残し元も部屋まで連れ戻されてしまった。
「おばあちゃん、なんて格好してるの! じいちゃんを煽るような格好したら、また縁側で押し倒されたりするところ見られる事になるんだよっ!! 今日、友達が来るからって言っておいたのに。蔵の整理してたんじゃないの?」
 ノンブレスで捲し立てる自称孫の前半に対する問題発言に、藍はげんなりしながらも説明するのも面倒で適当に話を聞き流すことにした。
「してたら、汗をかいたから着替えたんだ。それより、友達を置いてきて良かったのか?」
 藍が、そう指摘するとゲッと云う顔をして慌てふためいている。上手い言い訳が思いつかないんだろう。
 藍は、仕方がないとばかりに彼らを部屋に連れてくるように言ったが、その必要はなかった。
「いきなりどこかへ行ってしまうとは失礼だね君は! その人は誰なんだい? 必死に隠そうとする辺り、もしかして妖怪だったりして。もし、そうなら弱そうだね。ハッハッハハ」
 スパーンッと襖が開いたかと思うと、偉そうに仁王立ちするワカメ……ではなくワカメ頭のガキがいた。
「ちょっと清継君、リクオ君やお姉さんに失礼でしょう」
 人を見て妖怪とは、面白いことをいう奴だ。清継と呼んだ少女は、今風の正統派美少女って感じだ。
「こう見えても腕は立つんだがな。リクオの友人か?」
「あ、う…うん」
 オロオロとするリクオの様子に、奴良組を継がせるのは如何なものかと不安になった。それが稀有であることは別の話。
「妖怪が、こんな真昼間にウロウロするわけないだろう。あれは、夜に活動する存在だ。まあ、本当にいるかは別の話だがな。リクオの従姉だ。先日、両親が他界してな。身よりもないから、ここで世話になってるんだ」
 フッと陰りを帯びた表情を浮かべ大嘘を吐く藍の演技に、リクオの友人はそれを信じきってしまったようだ。
 上手く話を摩り替えられたことに気付いていない。
 藍が、内心『ちょろいな』なんて思っていると思わずに。
「リクオ、客人をいつまでも放っておくのはよくないぞ」
「そ、そうだね。じゃあ、皆こっちへ来て」
 リクオ達を追い払うように部屋を出し、ホッと安堵の息を吐いていたら、声が掛かった。
「氷麗(つらら)は嬉しいです! 折角、買った服を藍様が全然着て下さらないので、ず〜っと箪笥の肥やしになるのかと思っておりましたが安心致しました。ただ、総大将様が選んだ服というのが気に食わないんですけど……。折角ですから、他の服も着ましょう。そうしましょう!」
 いつから居たんだこの子は……と藍は内心突っ込みながら、400年後の自分は違う意味で大変な目に遭っているらしい。
「氷麗(つらら)は、リクオと一緒に行かなくて良いのか?」
「あんなのに付き合ってたら時間の無駄ですから。寧ろ、藍様と一緒に過ごした方が有意義というものです。先日、リクオ様の(未来の)奥方様である佐久穂姫様よりお洋服を頂戴したので、是非それも着てみて下さい。絶対似合うと思うのです!!」
 目をキラキラと輝かせる氷麗(つらら)に、藍の顔が思いっきり引きつる。
 彼女は、雪麗にそっくりだ。恐らく彼女の子なのだろうが、一体どんな育て方をしたんだとこの場に居ない雪麗を罵るが、育てたのが未来の藍だと知ったら教育方針を変えただろう。
「あら、氷麗(つらら)ちゃんも居たのね。捕まえてくれていて良かったわ。毛倡妓(けじょうろう)さんに、カメラを取りに行ってもらってるのよ。折角だから、お義母様に色々な服を着て頂かないと……。奴良家の財政のためにも!」
「……財政ってどういう事だ」
「お義母様の写真って売れるんですよ」
「……十人並みの顔だと自負してるが」
「思っているよりもお綺麗ですよ」
 ジャキッと両指の間にはメイク用の筆やペンタイプのアイライナーなどが挟まっている。
「うふふふっ……腕がなります。普段は、全然化粧とかして下さらないのでヤリガイがあります。絶対綺麗にして差し上げますので、私にドド〜ンッとお任せ下さいませ」
「私は、服を取ってきますね!」
 今、この瞬間に自分の運命が決まった気がした。
 疲労困憊するまで皐月を筆頭に、奴良組女性陣総出で藍着せ替えプロジェクトがスタートしたのだった。
 奴良邸に藍の悲壮なまでの悲鳴が響き渡ったのは言うまでもない。

*prevhome#next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -