小説 | ナノ

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 ぬらりひょんが出入りに出かけて三日が過ぎ、喜色満面の笑顔を浮かべ百鬼夜行を引きつれ戻ってきた。
 いつもなら愛しい妻が迎えてくれるのだが、今日は勝手が違った。
「総大将、お帰りなさいませ」
 出迎えに出てきたのは小鬼で、ぬらりひょんはガクッと肩を落とし何故藍が迎えに来ないのかと尋ねる。
「藍はどうした?」
「家事をしてます。あの……総大将、頑張って下さいね」
 何かに怯えるような目でぬらりひょんを見た後、彼は歯切れ悪く頑張れと発破を掛けた。
「何をじゃ? ……って、おい待て!」
 そんな小鬼の様子に訝しんだぬらりひょんだったが、彼は言いたい事だけ言うとピューッと走って逃げて行った。
「何かあったんでしょうか?」
 烏天狗の疑問に、牛鬼がポツリと言葉を返した。
「恐らく、総大将が何か仕出かしたんだと思うが……」
「なっ…ワシは、お前らと一緒に出入りに行ってただろうが!! どうやって仕出かすんじゃ」
「仕出かした後に出入りへ行ったとも考えられます。今のうちに藍様のご機嫌をどう取るか考えた方が宜しいかと思います」
「ワシは、何もしとらん!」
 至極真面目な顔をして失礼な事を宣う牛鬼に、ぬらりひょんは気分を害したように怒鳴りつける。
「藍が、何かで怒っているのは明白ね。総大将、さっさと謝ってよね。とばっちり食らうのは御免だわ」
 我関せずを貫いていた雪麗が、ぬらりひょんにそれだけ言うとさっさと屋敷の中へと消えて行った。恐らく、千尋のところだろう。
「どいつも、こいつもワシを何じゃと思っとるんじゃぁあああ!!」
 ぬらりひょんの空しい怒声に、誰もが『手の掛かる大きな駄々っ子』だと心の中で思っていたことは彼は知らない。
 藍に会いたい一心で驚異の速さで喧嘩を売ってきた組を丸々一つ潰して帰還したぬらりひょんは、藍の姿を求めて邸内を探し回っていた。
 邸内にいた妖怪共を捕まえては、藍の居場所を聞くが行く先々で彼女と会った試しはない。ぬらりひょんが来る前に、移動しているからだ。
「あやつ、何のつもりなんじゃ……」
 渡殿に手を付きシクシクといじけ始めたぬらりひょんを見た下僕達は、流石に可哀想に思えたようで藍を呼びに行くことにしたのだった。
 数分後、洗濯物を抱えた藍がぬらりひょんの前に現れるのだが、その表情は夫の帰還に喜ぶ顔ではない。
「お帰り」
「た、ただいま」
 真冬の空を思わせるほどの寒々しい目をした藍が、無表情でぬらりひょんの前に立っていたのだ。
「あんたに話がある。広間に幹部連中を集めて待ってろ。俺は、洗濯物を干してから行く」
「分かった」
 ぬらりひょんは、コクコクと頭を縦に振り肯定の意を示すと彼女は要は済んだとばかりにその場を去っていく。
 彼女が、甚くご立腹なのはよく分かったのだが見に覚えがないため頭を傾げる。
 藍に言われた通り、ぬらりひょんは広間に幹部連中を集め彼女が戻るのを待った。


「入るぜ。集まったな」
 スパンッと襖が勢いよく開き、仁王立ちしてグルリと幹部連中を一瞥した藍は、ズカズカと上座に居るぬらりひょんの隣に座った。
「こいつらを集まらせてどうするつもりじゃ?」
「珱姫が、襲われた。一歩間違えれば、殺されていた」
「それは、妖にという事でしょうか?」
 烏天狗の疑問に、藍はチラリとぬらりひょんを一瞥して答える。
「浚った相手は人間だったが、その人間が女妖怪に襲われた。珱姫いわく、ぬらりひょんの名前を呟いていたとさ」
「魑魅魍魎の主の座を狙っての犯行か!?」
 藍の言葉に、皆一様に険しい顔になる。
 魑魅魍魎の主になったぬらりひょんに喧嘩を売る身の程知らずは五万と居る。
 人である珱姫や藍にまで手を出してきた馬鹿は、これが初めてだ。
 少なからず、喧嘩を売ってきた身の程知らずは真性の馬鹿ではなかたったと言えるだろう。
「玉藻って名乗る妖怪知っているか?」
「誰じゃ? そいつが、珱姫を襲った男を殺した女妖怪の名か?」
 玉藻という名に聞き覚えがないのか、首を傾げるぬらりひょんの顔を藍はマジマジと観察した後、ハァと溜息を吐いた。
「お前の昔の女かと思ったんだが違ったか……。烏天狗、悪いがお前の眷属を使って玉藻って名前の妖怪を調べてくれ。後、ぬらりひょんに関する噂もな」
「それは構いませんが、何故総大将の噂まで調べる必要があるんでしょうか?」
「相手は、ぬらりひょんに懸想しているか、または恨みを持っているかのいずれかだと俺の勘が云う」
 陰陽師の勘は、常人よりも精度が高い。藍いわく、嫌な勘ほどよく当るのだ。
 何かを思いついたらしい雪麗が、ニヤッと意地の悪い笑みを浮かべて藍に問い掛ける。
「もし、ぬらりひょんの昔の女だったらどうする?」
「別にどうもしないさ。こいつは、俺に首っ丈だしな。浮気したければすれば良いさ。そん時は、俺も遠慮なくするし」
 自信満々に言い切る藍に、ぬらりひょんは喜ぶべきか悲しむべきか悩むところだった。
「前半は良いが、後半は頂けないぞ。浮気宣言ってどういう了見じゃ」
「あ? お前が、他の女に現を抜かしたらの話だろうが。それとも、俺以外に遊んでるのなら今すぐ浮気してやる」
 ぬらりひょんを軽く睨みつけ飄々とした顔でそう宣言する藍に、彼女の本気を悟る。
「俺の主に刃を向けこと死ぬほど後悔させてやる。烏天狗、早速取り掛かってくれ。解散」
 パンッと両手を打ちつけ解散宣言した藍は、ぬらりひょんの手を取り部屋を後にした。

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